全ての若き挑戦者たちへ──全日本学生音楽コンクールで創る未来と、踏み出す一歩

全日本学生音楽コンクール(通称・学コン)は、1947年の第1回以来、本年で第80回を迎える。小学生から大学生までが、それぞれの楽器・声と向き合い、予選・本選・全国大会と段階を重ねて競う舞台だ。

その各部門で諮問委員を務める5人の先生方(チェロ部門の堤剛委員長、ピアノ部門の外山準先生、バイオリン部門の石井志都子先生、フルート部門の酒井秀明先生、声楽部門の平良栄一先生)に、3つの観点から問いかけ、未来を切り拓くための大切な言葉をいただいた。

その言葉には、単にテクニックを磨くだけでは決して届かない音楽の本質、そして挑戦を迷う人の背中をそっと押す温かいメッセージが込められている。


取材・文:音楽コンクールガイド編集部

国内外の音楽コンクール情報を紹介する専門サイトを運営。「見やすい、探しやすい、わかりやすい」をコンセプトに、コンクールに関わる全ての方に、有益な情報をお届けすることを志している。


<全日本学生音楽コンクール 諮問委員>

堤 剛

委員長 / チェロ部門

外山 準

ピアノ部門

石井 志都子

バイオリン部門

酒井 秀明

フルート部門

平良 栄一

声楽部門

目次

課題曲・審査に込める願い

── 課題曲選定や審査を通して、挑戦する子どもたち・若い演奏者に「何を学び取ってほしい」「どんな力を育ててほしい」と願っておられますか。

堤 剛 先生
「もちろんコンクールという場であり、お互いに競い合うわけですが、やはり根本にあるのは音楽という素晴らしい表現技術であるということです。ですから、練習や準備をしていく中で忘れてほしくないことは音楽をすることを楽しむとともに自分を高めるために、より美しいもの、より洗練されたもの、より意義のあるものを追求する努力をして欲しいと思います」

外山 準 先生
「近頃の出演者は、小学生から高校生までテクニックは素晴らしいです。特にエチュードは、すごい速さで演奏します。しかし音色は単色であまり表情がなく退屈です。そこで、課題曲には短くても表情をつけなくてはいけない曲を選んでいます。指は只、速く動くだけでなく、一音一音意味のある音をだせるようにして欲しいと思います」

石井 志都子 先生
「小学生がレベルを知りたいと応募してみることはとても良いことです。ですが、課題曲のレベルなどを考察してあまり無理はしないほうがいいとも考えています。また、中学生や高校生は自分の意志をもって応募するようにしてください」

酒井 秀明 先生
「J.J.クヴァンツ著の『フルート奏法試論』(1752年)の中に次のような記述があります。『アダージョの演奏法について』と題して、『アダージョを上手に演奏するためには、演奏しなければならないものを作曲者が作曲した時と同じような気分を表現するために、出来るだけ静かな、殆ど物悲しいともいえるような気持にならなければならない』。良い音色、正確な技術も勿論大切ですが、演奏すべき曲の性格に相応しい表現を期待しています」

平良 栄一 先生
「“光陰矢の如し”変声期を過ぎた若い素材の可能性を見出し、育てることを目的に80年がたち着実にその成果が出てきている。これは各学年・地域を問わず指導者の支えが大きく寄与していると思います」

学コンの舞台に立つことの本当の意味

──「この舞台での経験が、その後の歩みを確かに変えた」と感じられた一例、また、このコンクールが大切にしてきたもの・この舞台ならではと感じられることをお聞かせください。

堤 剛 先生
「これは参加者全員に当てはまることかも知れませんが、自分の才能(ポテンシャル)や持てる力を十分に発揮できた人が上位入賞を果たしておられます。コンクールに参加することはある意味、自分というものをよりよく知り、より幅広い演奏家に成長させていくことです。舞台上で一人で演奏するのは大変なプレッシャーですが、その経験から得るものは誠に大きいです」

外山 準 先生
「全日本学生音楽コンクールは、日本では一番権威のあるコンクールですから優勝して日本を代表する演奏家になっている方々が多いです。このコンクールは、予選、本選、全国大会と3回も本番を重ねることによって緊張感を保つのに大変、大切なことだと思います」

石井 志都子 先生
「私事ですが第6回の全日本学生音楽コンクールを九州大会で参加し全国大会に進み1位になって戸惑ったことを覚えています。この結果をきっかけに東京で学び、日本音楽コンクールでの入賞を果たし、フランスでのコンクールに派遣され、入賞することができて、演奏家としての道が開けました」

酒井 秀明 先生
「コンクールを受ける際に、せめて予選通過、出来るなら受賞をと言うところに目標を置く事は勿論間違いではありません。しかし目の前の課題に一時期集中して取り組むその過程が上達に繋がるでしょうし、その成果を発表する場を経験する事は、たとえ望んでいた結果が得られなかったとしても貴重な体験として成長の糧となる事でしょう。ただし、片っ端からコンクールを受けて、それに追い立てられる状況は避けるべきだと思います。じっくりと基礎的な事柄を練習する時間も必要です」

平良 栄一 先生
「新型コロナウイルス対策期間中にも関わらず十分な配慮のもと、各地区大会、全国大会を通じて1名のみのビデオ審査で乗り越えた当時の参加者たちが現在、音楽界、教育界で活躍している姿は見ていてうれしい限りです」

挑戦を迷っているあなたへ

──「まだ早いのではないか」「今の実力で挑戦してよいのか」と出場を迷う方やそのご家族・指導者へ、背中を押すメッセージをお願いします。

堤 剛 先生
「それがどのステージ(部)であっても究極的には自分自身に対するチャレンジなのですから、その時点で自分をベストに発揮できそうなタイミングで受けてみるのが一番良いでしょう。もちろん課題曲も自分に合ったものを選ぶことも大切です。また、集中して練習することは音楽的な深みを追求することでもあります。すべてをポジティブにとらえ、生かすことがとても大切です」

外山 準 先生
「小さい時から本番に慣れることと、正確な暗譜をすることが大切です。演奏は、本番を重ねることによって実力がついてきます。したがって1回や2回の失敗で、ガッカリすることはありません。失敗することによって悪い所が分かってきて、そこをよく意識して繰り返し練習することです。練習する時には、自分の音をよく聴きながら、頭と耳をよく使って練習することです」

石井 志都子 先生
「本番では思いもよらぬことが起きます。思う以上に良い演奏になったり、演奏がうまくいかないこともあります。緊張の中での演奏は多くを学ぶことができます。最近では参加者の技術に差がなく、人の心を動かす音や音楽性に研きをかけると良いように思います」

酒井 秀明 先生
「与えるべき課題は生徒の技量に合った、難しすぎないものをというのが原則だとは思います。しかし、時には少し難しすぎるのではと思われる課題が大きな進歩のきっかけになる場合もあります。特に本人がそれを望む場合には、主体性を尊重して、ちょっと冒険をする勇気が功を奏する場合もあります」

平良 栄一 先生
「“継続は力なり”自分が努力してきたことを信じてチャレンジすることはとても大切なことであり、その経験は必ず今後に生かされます」

結び ── 新たな物語の始まりへ

張り詰めた空気のなか、舞台袖から光あふれるステージへと踏み出すその一歩。次にこの歴史ある大きな舞台へ上がり、自分だけの新しい物語をスタートさせるのは、今この記事を読んでいるあなたかもしれない。

第80回 全日本学生音楽コンクールの参加申込は6月26日に始まる。詳しい部門・日程・申込方法は公式ホームページでご確認いただきたい。

目次