リアル『のだめ』の世界へ!パリ国立高等音楽院・恵良響さんに聞く~「表現から入る」フランスの音楽教育~

恵良さまアイキャッチ

小学生の頃、映画版『のだめカンタービレ』に出てくる登場人物を楽しそうに眺めていた少女が、地道な努力の末に、まさにその舞台である「コンセルヴァトワール」こと、「パリ国立高等音楽院(CNSMDP)」の門を叩きました。

今回インタビューにお答えいただいたのは、同音楽院の第一課程(大学相当)に在籍する恵良 響(えら ひびき)さん。難関の東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校へ入学し、卒業後は単身フランスへ渡りました。一見すると華やかなエリート街道を歩んでいるように見えますが、その裏には世界中の天才たちに囲まれて揺らぐ等身大の姿も見え隠れします。

パリ国立高等音楽院でのリアルな音楽教育の姿や、留学後のパリでの日常、イル・ド・フランス国際ピアノコンクールでファイナルに残ったときのハラハラするような舞台裏について語っていただきました。


取材・文|編集部

自分にピッタリな音楽コンクールが見つかる!国内外の音楽コンクール情報や結果まとめをわかりやすくご紹介し、次世代の音楽家や音楽ファンの皆様に寄り添います。


プロフィール

恵良さんプロフィール

恵良 響(Hibiki Era)
福岡県出身

4歳からピアノを始める。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校卒業後、渡仏。パリ地方音楽院在学中に、第25回イル・ド・フランス国際ピアノコンクールコンサートディプロマ部門にてファイナリストに選出される。現在はパリ国立高等音楽院第一課程在籍し、Jonas Vitaud、Claire-Marie Le Guay、Florian Caroubi、David Saudubrayの各氏に師事。音楽コンクールガイドで「お悩み相談室」を担当。

好きな作曲家:プーランク、スカルラッティ、メンデルスゾーン
趣味・特技:カフェ巡り、数独

『のだめ』の世界が現実に?パリ国立高等音楽院での毎日

パリ国立高等音楽院(恵良さん撮影)

恵良さんの通うパリ国立高等音楽院は、1795年に創設された世界屈指の名門音楽学校で、ドビュッシーやラヴェルなど数多くの偉大な作曲家や演奏家を輩出してきました。『のだめカンタービレ』で主人公の「のだめ」こと野田恵がピアノ留学する、通称「コンセルヴァトワール」のモデルとしても知られます。

──恵良さんは、小学生の時に実写映画版の『のだめカンタービレ』をご覧になったそうですね。当時、自分がその舞台である「パリ国立高等音楽院」に行くことを想像していましたか?

恵良
全く考えていませんでした。「海外って楽しそうだな」「音楽をこのまま続けていけば、こういう世界が見られるのかな」とは軽く考えましたが、本当にその程度でしたね。日本の音大と海外の音大の違いもわかっていませんでしたし。

「響」という名前ですが、両親は特に音楽にゆかりがあるわけではないんです。ごく普通の家庭で育ち、4歳でピアノを始めました。音楽の道を意識し始めたのは、高校受験のあたりからです。

──パリ国立高等音楽院には『のだめカンタービレ』に出てくるようなユニークな先生や生徒もいらっしゃるんでしょうか?

恵良
あそこまで強烈な個性の人にはまだ出会えていないですね(笑)。でも作品に出てくるような低年齢の子は在籍しています。ただ、入試曲が弾けないといけないので、どんなに若くても中学生くらいからかな、という印象です。

よく弾ける人がたくさんいて、有名な国際コンクールでファイナルに残ったり入賞したりとか、いわゆる「天才」みたいな人たちもいます。

校舎は日の光がたくさん入る部屋が多くて、常に明るい雰囲気の中で練習ができるので、気持ちがとても前向きになります。校内を歩いていると、いつもいろいろな人の練習の音が聞こえてきます。

──授業内容はイメージ通りでしたか?

パリ国立高等音楽院中庭(恵良さん撮影)

恵良
そうですね。パリ国立高等音楽院では国語や数学のような一般教養の授業が一切なくて、勉強する科目が全部音楽系なんです。その代わりに音楽史やアナリーゼなど音楽系の授業がとても充実しています。

⋆アナリーゼ(楽曲分析):楽譜の構造を細かく読み解き、和声(コード)の進行やフレーズの構成、作曲家の意図などを座学で深く勉強する授業のこと。

──アナリーゼと言えば、留学直後に「のだめ」がとても苦戦していた授業です。やはり難しいんでしょうか?

恵良
アナリーゼは、基本的に楽器を学ぶ人は必須で受けないといけないんですが、フランス人にとっても難しいと言われていますし、留学生からすると言語の壁もあるので本当に大変です。

でも、アナリーゼをやると、暗譜がしやすくなるんですよ。私自身「こことここは同じメロディーで、ここだけが違う」という曲の骨組みが頭にすっと入るようになりました。演奏にとても活きています。

自分の分析をみんなの前で紹介する、プレゼンみたいな授業もありますよ。

──室内楽の授業では、ご自分でメンバーを見つけるんですか?

恵良
そうですね。自分でメンバーを見つけて、グループを組んでから授業に申し込むという流れです。同じ期間中に2つまでグループを組めるので、複数のグループに所属することもあります。

ただ、やっぱりグループを組むのが1番大変ですね。ピアノ専攻だと学士の3年間の間にデュオ(2人での演奏)は2回までと定められています。早々にデュオの回数を消費すると、その後メンバー集めが大変というのは聞きます。

──パリ国立高等音楽院の学生さんは、どのような毎日を送られていますか?

朝ごはんのパン(恵良さん撮影)

恵良
教授のレッスンがある木曜日をベースに、私の大まかなスケジュールをまとめてみました。

恵良 響さんの「1日のスケジュール」(レッスンがある日)
05:00 起床、身支度
07:00 学校へ(パン屋さんで朝ごはんやコーヒーを買って登校)
08:00 練習開始
10:00 教授のレッスン(1時間)
11:30 学校内の食堂で昼食
12:30 練習、室内楽の合わせ、友達とおしゃべりなど自由行動
14:30 アナリーゼの授業(17:30まで)
18:30 帰宅(余裕があれば練習。疲れているときは無理しません。)
19:30 夕食
20:00 課題をしたり、片付けをしたり
21:00 就寝準備(余裕があればほかの課題をこなすことも)
22:00 お茶を淹れてゆっくりリラックスタイム
23:00 就寝

── 毎日、何時間くらいピアノを弾かれているのですか?

恵良
授業がたくさんあり個人練習の時間がなかなか取れない日もあるのですが、基本的には3時間以上は弾くようにしています。体力がある時はもう少し弾くこともあります。

パリ国立高等音楽院は、実技の宿題がたくさん出るんですよ。いま私が弾いているのは、ベートーヴェンのソナタ第28番の全楽章、デュティユーのプレリュード、ドビュッシーのピアノのために。まだこれから増える予定もあります。

ただ、学校の講習会で「6時間以上は弾いてはいけない」と言われたので、弾きすぎないようには気をつけています。弾きすぎると疲れて指が回らなくなったり、腱鞘炎になったり、メンタル的に焦りが出たりするので。決められた時間で集中してやっていく方が、技術的にも健康的にも良いなと感じています。

──先生方から学ぶ中で、ご自身の音楽観に変化はありましたか?

恵良
曲を仕上げる時に、音楽のもたらす「効果」みたいな部分から考え始める。それをフランスに来てから学びました。

多分、日本でも学ばないといけないことだったとは思うんです。でも日本にいた頃は、レッスンに行くなら「まず弾けるようにしてから」と考えていて。止まらず通して弾かないと、って思い込んでいたんです。

でも、こちらではそうではありません。例えば試験の課題が発表された日に、「夕方のレッスンに持って来られる?」って先生がおっしゃるんです。
当日なので、弾けているわけないですよね(笑)。朝に発表されて、日中には授業があるんですから。でも、そういうことが結構よくあって、「雰囲気だけでも掴めていればどうにかなるから」と言われるんですよ。

反対に、難しい曲が課題のとき、最初に「とりあえず通しました」という感じで持っていくと「どうしてそんなにテンポ通り弾こうとしているの?」って言われてしまいます。それより音楽に色をつけるというか、表現から入らないと「それはピアニストの演奏じゃなくて、学生の演奏だよ」って。そういう面で、自分でも音楽に向かう姿勢が変わりました。

フランスでは、小さい子の演奏も、音楽として聞いたときの完成度がすごいんです。先生に言われてこう弾いているんだろうな、というのではなくて、本当に自分が感動していて、「こういう風に弾きたい」というのを伝えようとしている演奏というか。小さくても、音楽的にこんなに成熟した演奏ができるんだと思って、とてもびっくりしました。

──恵良さんは現在、第一課程(学士課程相当)に通われています。このあとは第二課程(修士課程相当)に進まれるご予定ですか?

教室(恵良さん撮影)

恵良
そうですね、今のところはそう考えています。まじめに勉強してよい成績を修めれば、無試験で第二課程に上がれるシステムなので。内部からは、ほとんどの学生がそのまま第二課程へ進みます。

18歳で単身フランスへ!気になるリアルな留学費用

──東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校をご卒業後、フランスへ留学しようと思われたきっかけは何だったのですか?

恵良
高校1年生のときに、お世話になっていた先生から「クラスの先輩が今度パリに行くことになった」というお話を聞きました。それで、私が「羨ましいです!」と言ったら、先生が「あなたも行けると思うよ」と言ってくださって。私は言われたことをそのまま受け取るタイプなので「じゃあ頑張ろう」って(笑)。元々フランス音楽が好きだったことや第一課程の年齢制限などを考えて、そこから少しずつ意識し始めました。

両親は最初、冗談だと思っていたみたいです。でも本気で留学を目指すことが決まったら「できる限り応援したい」と言って支えてくれました。

⋆年齢制限:パリ国立高等音楽院のピアノ科第一課程の受験資格は、10月1日時点で22歳未満と定められています。

──パリ地方音楽院(CRR de Paris)に1年間在籍されてから、パリ国立高等音楽院へ進学されていますね。こちらは一般的なルートなのですか?

パリ地方音楽院でご友人と撮った写真(恵良さん撮影)

恵良
日本からだと、直接パリ国立高等音楽院を目指す人が多いかもしれません。ただ、私の場合は先に留学していた先輩から「日本から来てすぐだと、生活面や言語の問題でバタバタして勉強に集中できない。まずはパリ地方音楽院で環境や友達作りに慣れた方がいい」とアドバイスをいただいたんです。実はフランスでは、区立音楽院や地方音楽院で勉強してから国立へ進むパターンが多いんですよ。

私もそのルートを歩んでみて、よかったなと思っています。生活面については比べたわけではないので何とも言えませんが、少なくとも素晴らしい先生に出会えて、自分でも驚くほどピアノが伸びました。そこで教わった「音楽に感動する力」は、今でも私の宝物です。

それまでは「感動した」といっても表面的なきれいさにとどまって、素通りしてしまっていたところがあったんです。でも「自分がどこに重きを置くか」「自分が感動する要素みたいなものをどうやって表に出すか」ということを、改めて考えるようになりました。

ちなみにパリ地方音楽院は、パリ国立高等音楽院が現在の場所へ移転する前に使っていた建物でもあります。パリ国立高等音楽院は近代的でおしゃれな校舎が魅力ですが、パリ地方音楽院は昔ながらのパリらしい風情が楽しめる校舎なんですよ。

──パリ地方音楽院やパリ国立高等音楽院の受験について教えてください。

地方音楽院教室(恵良さん撮影)

恵良
パリ地方音楽院のときは、入学後につきたいと思っていた先生に、事前にレッスンをお願いしました。顔合わせのような感じです。そこで先生に「大丈夫だよ」と言っていただいたので、ある程度安心して受験することができました。

パリ国立高等音楽院のときは、入試の情報を自力で探さないといけないのが大変でした。日本語で探すのが難しくてあまり詳しいことがわからなかったし、合格者数も毎年決まってるわけではなく、空いた枠の人数しか取らない感じなので。

──フランス語の勉強はいつごろからされていたのでしょうか?

本名は伝わりづらいので「エミリー」の名前でコーヒーを注文している(恵良さん撮影)

恵良
最初は高校2年生くらいで、初級会話のクラスに通いました。でも学校が忙しくてあまり通えず、すぐ辞めてしまって。

3年生になり、パリ地方音楽院の入試が6月くらいだったんですが、終わって帰ってきたらもう7月で。そこから1対1のフランス語のクラスを取って、なんとか生活できる程度になるまで猛勉強しました。だから入学前、本格的に勉強したのは大体2か月くらいですね。

それから地方音楽院に入ってからは、フランスに住んでる日本人の方に教えていただきました。この方は、最初に住んだ家の大家さんのお知り合いだったんです。

パリ国立高等音楽院では、外国人はフランス語のクラスを取ることになっているので、授業の中でフランス語を学べますよ。

──これから留学を目指す方や保護者の方へ、留学費用の目安を教えていただくことはできますか?

恵良
はい、円安の影響やパリの物価高が重なって、年々生活費が上がっているのが実状です。現在の目安としてはこんな感じです。

費用の目安 (1ユーロ=180円換算)
項目 費用の目安 特徴
学費(年間)
※パリ国立高等音楽院
約521ユーロ
(約93,780円)
国立のため、非常に低価格に設定されています。
家賃(1ヶ月) 約935ユーロ
(約168,300円)
パリ市内は家賃の高騰が続いています。
生活費(1ヶ月) 約865ユーロ
(約155,700円)
食費や光熱費など。物価高の影響を強く受けます。

※為替レートは変動するため、実際の金額とは異なる場合があります。

恵良
パリ国立高等音楽院は一般教養がない分、日本の音大と比べて授業数は少ないんです。だから週に何回か、無理のない範囲でアルバイトをしている留学生も結構いますよ。私の周りではレストランでアルバイトしている人が多いですね。

朝5時にストリートピアノで練習!イル・ド・フランス国際ピアノコンクールの舞台裏

恵良さん演奏写真

恵良さんは2024年、イル・ド・フランス国際ピアノコンクールのコンサートディプロマ部門に出場し、ファイナルまで進まれました。イル・ド・フランス国際ピアノコンクールはパリ近郊のメゾン・ラフィットで開催されるコンクールで、日本人では務川慧悟さんも過去に入賞されています。

──このコンクールには、どういう経緯で出場されたのですか?

恵良
パリ国立高等音楽院の受験が終わった直後に、地方音楽院の先生から「時間があるんだから、力試しに出てみたら?」と言われて申し込みました。

でも新しい曲をさらう余裕がなかったので、受験で弾いた曲をメインに演奏しました。モーツァルトのピアノソナタ第9番は受験では弾きませんでしたが、個人的に大好きでいつか弾きたいと思っていた曲です。モーツァルトでは、私の好きな「可愛らしさや無邪気さ」「光のある明るさ」が上手く表現できたと感じています。

──そして、見事にファイナルまで進出されたのですね。

恵良
ファイナリストに名前を呼ばれた時は本当にびっくりしました。実は私も先生も、ファイナルに進めるとは思っていなかったんですよ。「こういうのは経験だから。若いうちに大きい舞台に立つのが大事だから。」と先生から言われてたので。

まさか通ると思っていなかったので、ファイナルで弾く曲はあまり練習できていなくて焦りました。予選結果の発表が夕方で、ファイナルは次の日。しかも運が悪いことに一番最初が私で、朝一番に弾かないといけなかったんです!

夜は学校の練習室が使えないし、どうしようかとパニックになって……。悩んだ結果、パリのサン=ラザール駅にあるストリートピアノが使えるとひらめいて。ここのストリートピアノは駅の開館と同時に朝5時からの音出しが認められていたんです。なので夜は帰ってすぐ寝て、朝5時に駅に行って猛練習しました(笑)。

──『のだめカンタービレ』に出てきてもおかしくないような驚きのエピソードですね!

恵良
通勤ラッシュの時間で誰も足を止めないのが幸いでした。私も必死だったので殺気立っていたかと思いますし。私自身「何やってるんだろう」って思いながら練習してました。

通る通らないにかかわらず、しっかり練習しないとなって反省しました。

──イル・ド・フランス国際ピアノコンクールを経験して、心境に変化はありましたか?

恵良
周りは20代、30代の年上の演奏家ばかりだったので、人生経験の差が音楽の引き出しの差になっているのを痛感しました。私はずっと家でピアノばかり弾いてきたタイプだったので。もっといろんな経験を積んで表現の引き出しを増やしたいと思うようになりました。

それから、私は普段自己肯定感があまり高くないほうで。ほかの人と自分の間には大きな差があって、その差を埋めるためにはものすごく努力をしないと追いつけないって考えてたときに、このコンクールを受けたんです。だからこそ、自分が届かないと思っていたレベルの人たちとファイナルという場で対等に渡り合えたことは、とても大きな自信になりました。

パリの街並み(恵良さん撮影)

「お悩み相談室」担当として

──恵良さんご自身が、これまでのピアノ人生でぶつかった最大の壁は何ですか?

恵良
一番の悩みであり、今も向き合い続けているのは「手の小ささ」です。私の身長は151cmしかなくて、手も小さいんです。和音の配置によっては、1オクターブすら掴めないこともあります。

そのため、届かない音を逆の手で拾ったり、和音をばらして(アルペジオのように)弾いたりと、技術的な工夫が必要になります。「本当は同時に鳴らしたいのに、ばらさざるを得ない」という時、自分の理想の響きに仕上がらなくてもどかしく思うこともあります。どちらかというと、ピアノ向きの手ではないんです。

──読者の方々の「お悩み」に向き合うとき、心がけていることはありますか?

恵良
私は元々、人が気にしないような小さなことをものすごく気に病んでしまうタイプなんですよ。だからこそ、相談者さんの気持ちが痛いほどわかります。わざわざネットで知らない人に悩みを相談するということは、きっと周りの親しい人に相談しても納得のいく答えがもらえなかったり、寄り添ってもらえなかったりして、一人で抱え込んでいる状態だと思うんです。

だから、一般的に見て「そんなに深刻じゃないよ」と思えるような問題であっても、絶対に軽く扱いたくはないんです。まずは「私もそうだったよ」と共感しつつ、その上で、難しすぎず、でも一歩前を向けるようなアドバイスを一緒に考えていきたいです。

──最後に、ピアノや進路のことで悩んでいる方へ、メッセージをお願いします。

恵良
ピアノに関しては、手の大きさのように「自分の努力ではどうにもならない問題」に対しては、あまり悲観的になり過ぎないでほしいということです。私もずっと悩み続けていますが、絶対にやりようはあります。どうにもできない理由のせいでピアノを諦めてほしくありません。それよりも、自分ができること、自分にしか出せない得意な表現を前向きに伸ばしていった方が、ずっと素敵な音楽になります。

進路に関しても、100%自分の思い通りにいかないことはたくさんあります。でも、その時々の状況の中で「自分が一番納得できる形」にするために何が必要かを考えてやっていくこと。それが、ピアノの道を進む上でも、人間としても、一番進歩できるやり方なのだと思っています。

インタビューを終えて──編集後記

パリ国立高等音楽院で、世界中から集まった才能あふれる若者と過ごす日々。華やかなイメージの裏側で、恵良響さんのお話から伝わってきたのは、ひたむきに音楽と向き合う等身大の姿でした。フランスで「まず表現から入る」という考え方に触れ、自分らしい音楽を少しずつ育んでいく過程は、読者の皆様にとっても多くの気づきを与えてくれたのではないでしょうか。

「自分にしか出せない表現を前向きに伸ばしてほしい」という静かで力強い言葉は、ピアノの演奏や進路に悩む方の心をそっと軽くしてくれるはず。「お悩み相談室」でも、葛藤を乗り越えてきた恵良さんだからこそ語れる、温かく的確なアドバイスに出会えることを楽しみにしています。