NHK-FM「弾き語りフォーユー」のパーソナリティーを27年続けて28年目に入り、作詞・作曲・編曲までジャンルを問わず手がける小原孝さん。神奈川県川崎市に生まれ、2003年から川崎市市民文化大使を務めています。今回は、第1回から本選の審査を担当されている第5回かわさきピアノコンクールを振り返りながら、審査員席で何を聴いているのかを伺いました。「ミスの無い模範的な演奏より個性的で自分らしい演奏があるととても嬉しくなります」。5回分の変化を見つめてきた先生が、これから挑戦する方へ贈るメッセージをお届けします。
取材・文|編集部
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プロフィール
小原 孝(Takashi Obara)公式サイト
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ピアニスト・作曲家・NHK-FM「弾き語りフォーユー」パーソナリティー
略歴:神奈川県川崎市生まれ。クラシックギタリストの父の影響で6歳よりピアノを始める。国立音楽大学附属中学・高校および大学を経て、1986年に同大学院を首席で修了。クロイツァー賞を受賞し、初のリサイタルを開催した。ピアノ・伴奏法を菅野洋子、小林道夫、塚田佳男、ルドルフ・ヤンセン各氏に師事。
演奏・録音:1990年のCDデビュー以来、「ピアノよ歌え」「小原孝のピアノ詩集」「弾き語りフォーユー」などのシリーズで通算54枚のアルバムを発表。1994年に始まった全国コンサートツアーのステージ数は2000回を超える。2025年にCDデビュー35周年を迎え、記念盤「小原孝BEST OF BEST」を発表した。
放送・著作:1999年4月よりNHK-FM「弾き語りフォーユー」のパーソナリティーを担当。27年続け、28年目に入る。NHK Eテレの講座番組では講師を務め、テキストは12万部を売り上げた。2025年よりNHKラジオ「小原孝のやすらぎクラシックⅡ」「小原孝のゆったりクラシックⅡ」の放送が始まった。2006年には奏楽堂日本歌曲コンクールで3度目の優秀共演者賞と、作曲部門「中田喜直賞」をあわせて受賞している。
教育・地域:尚美学園大学客員教授、全日本ピアノ指導者協会(PTNA)評議員。2003年より川崎市市民文化大使、2015年には川崎市文化賞を受賞。気仙沼みなと大使も務め、東日本大震災の復興支援コンサートを各地で続けている。
【音楽の歩み】
父はクラシックギタリストで、自宅がギター教室だった。生まれたときから音楽が満ちあふれる環境で、6歳からピアノを始める。 左手の薬指が曲がったままで動きにくかったため、ピアノを始めたときから「ピアニストにはなれない」と言われ続けてきた。 大学時代、菅野洋子先生から「指の形はどんな形でも良いからあなたのやり方で美しい音を追求しなさい」と言われたことが、今につながっている。
【音楽以外の横顔】
以前は水泳をしていたが、骨折とコロナで断念。現在は断捨離に励んでいる。ただし「全然捗っていませんが」とのこと。
第5回かわさきピアノコンクールを終えて
──第5回かわさきピアノコンクールの本選審査を終えて、全体としてどのような印象を受けられましたか。
小原
第1回から本選審査を担当していますが、コロナ禍も乗り越えこのコンクール自体が浸透してきて毎回確実に参加者がレヴェルアップしています。他のコンクールの課題曲かな?と思われる演奏も多く、それぞれの皆さんがそれぞれ目的を持って参加されている印象が強くなりました。一番の特徴は本選は「カルッツかわさき」という2000人クラス大きなホールで演奏出来る事。滅多にない経験が出来ますので是非生かして欲しいです。
──審査では、どのような点を大切に聴いていらっしゃいますか。
小原
選曲が自由曲で様々な作品が聴けるので、演奏会を楽しんで聴く感じで審査しています。僕個人的にはミスの無い模範的な演奏より個性的で自分らしい演奏があるととても嬉しくなります。また、大きなホールだから大きな音を出そうと叩き過ぎず美しい音色に出会うと幸せな気持ちになります。
──今回はA・C・E・Fの4部門。年代によって、聴くポイントに違いはありますか。
小原
小中学生は確実にレヴェルが上がり、難曲に挑戦する方も多いです。しかもきちんと弾きこなしてそれはそれで素晴らしいですが、あまり背伸びをしないで年齢・成長過程にあった曲も是非大事に弾いて欲しいなと感じました。大人の皆さんはそれぞれ目的を持って挑戦されているかと思いますが、是非今だけではなくシニア世代になっても弾き続ける長い目で考えた演奏を目指して欲しいなと思いながら審査しました。
──予選・本選ともに自由曲のコンクールです。選曲やプログラムの組み立てから、どのようなことが伝わってきますか。
小原
自由曲ならではの良さがありますね。時間が限られていますから選曲も大変だと思われますが、コンクールというより自分のステージを楽しむ形で選曲されるといいですね。ただ少し難し過ぎる曲も多かったので、やさしい曲を心を込めて弾くことも大切だと感じました。狭き門でやさしい曲では本選まで残らないのかもしれませんが、美しい音色でほっと気持ちが安らぐような曲があると逆に心に残ります。
──「上手い」だけでは届かない、聴き手の心に残る演奏とは、どういうものでしょうか。
小原
コンクールで良い成果をあげる事だけを目的に演奏すると、どうしても怖い印象の演奏になる。指を動かす以外の部分で、どれだけその曲を理解して愛情を持って演奏するかで、伝わり方が違ってくるのではないでしょうか。
──作詞・作曲・編曲、そして歌い手との共演。幅広いご経験は、審査にどう活きていますか。
小原
自分の場合はピアノコンクール以外に、合唱や日本歌曲コンクールなども審査しています。ピアニストの立場・指導者の立場・作曲家の立場・伴奏者の立場、立体的に審査することを心がけています。
──第1回から本選の審査を続けてこられました。回を重ねるなかで、どのような変化を感じていらっしゃいますか。
小原
最初は地元向けで発表会の延長みたいな参加者も多かったと感じましたが、確実にコンクールとしても成長していますね。多くの方々がそれぞれの形でコンクールに参加できるように、また参加したことが良い経験になって次に繋げられるように、これからも変わっていくのではないでしょうか。
──川崎市のお生まれで、市民文化大使も務める先生にとって、地元で開かれるこのコンクールはどのような存在ですか。
小原
僕が子供の頃、川崎は東京と横浜に挟まれ文化の谷間と呼ばれていました。それが「音楽の街かわさき」に変わって地元でコンクールが開催されるのは本当に嬉しいです。川崎市の変化もずっと見て来たので、これからの変化・成長も更に楽しみですね。
──最後に、かわさきピアノコンクールに挑戦する方、そして音楽を志すすべての方へ、メッセージをお願いします。
小原
結果うんぬんに関わらず、音楽の素晴らしさを感じられる・伝えられるコンクールを目指してスタッフの皆さんも頑張っているのが感じられます。参加する皆さんもぜひ伸び伸びと自分らしく演奏して下さい、一緒に音楽しましょう。
【小原孝ピアノリサイタル2026 〜本田聖嗣さんをお迎えして〜】
2026年11月3日(火・祝)13:30開演(13:00開場)
よみうり大手町ホール(東京メトロ・都営地下鉄「大手町駅」C3出口直結)
全席指定 6,500円(税込)/小中学生 1,000円(Ro-Onチケットのみ取り扱い)
チケット:Ro-Onチケット(047-365-9960)、ローソンチケット、チケットぴあ、e+
第1部は小原孝さんのソロ、第2部は本田聖嗣さんを迎えての連弾。
詳細はこちら → 小原孝のピアノサロン(公式サイト)
【新刊】オリジナル・ピアノ曲集『スタニヤン・ストリート』(音楽之友社)
2026年10月発行/定価2,640円(税込)
小原孝さんご自身の作曲によるピアノソロ曲集。1曲3〜6分ほどで、ピアノを楽しみたい大人の方にも。
インタビューを終えて──編集後記
「叩き過ぎず美しい音色に出会うと幸せな気持ちになります」。小原先生のこの一言に、私は何度も立ち止まりました。
大きなホールだから大きな音を、と思うのは自然なことです。けれど先生が待っているのは音量ではなく、心を込めて置かれた一音でした。そしてその背景には、指が思うように動かず「ピアニストにはなれない」と言われ続けた日々と、「あなたのやり方で美しい音を追求しなさい」という恩師の言葉がありました。自分の音を信じてよいと言われた人が、今、審査員席で誰かの音を聴いている。そう思うと、先生の言葉の重みが変わって見えてきます。
「文化の谷間」と呼ばれた街が「音楽の街かわさき」になり、その街でコンクールが開かれ、第1回から見守ってきた。この5回分の時間を、先生はずっと客席側からも、審査員席からも見てこられたのだと思います。
小原孝先生、お忙しいなか、温かいお話を本当にありがとうございました。
第5回かわさきピアノコンクールの概要については下記をご覧ください
第5回かわさきピアノコンクールの結果については下記をご覧ください
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