「コンクール」ではなく「コンサート」だと思って弾いた──10歳の柳井真那さん、イタリアの舞台で優勝

「コンクール」ではなく「コンサート」だと思って弾いた──10歳の柳井真那さん、イタリアの舞台で優勝

憧れの国で、憧れの舞台に立つ。柳井真那さんが2026年7月、イタリア・サン・ヴィート・アル・タリアメントで開かれた「第10回ピッコロ・ヴィオリーノ・マジコ国際ヴァイオリンコンクール」で、世界各地から集まった21名のなかから第1位を受賞しました。あわせて、客席の投票で選ばれる聴衆賞も。決勝に進んだ4人のうち、真那さんが最年少でした。13歳以下を対象に、予選から決勝まですべてをオーケストラとの共演で行う、この年代では世界でも数少ないコンクールです。

昨年、第7回日本奏楽コンクールの受賞者としてお話を伺ったとき、真那さんは夏に旅行で訪れたイタリアで「エレガント」という言葉に出会い、それを演奏に生かしたと話してくれました。旅行者として憧れた国で、今度は演奏者として結果を出したことになります。あの時「聴いてくださる皆さんにも楽しんでいただけていたら嬉しい」と話していた真那さんに、半年の準備と、忘れられない8日間のことを伺いました。


取材・文|Eri TANAHASHI

フリーランスのライター・編集者。経営者からスポーツ選手までジャンルを問わず多彩な人物取材を経験。「音楽コンクールガイド」では受賞者・審査員への取材と執筆を担当し、公式Xでは“中の人”としても発信している。音楽ライブやピアノリサイタルの鑑賞も楽しみのひとつで、好きなものはとことん追いかけるタイプ。人の想いや歩みを丁寧に聴き、その人らしい言葉を届けることを大切にしている。


プロフィール

柳井 真那(やない まな/Mana Yanai)Instagram
東京都出身・在住。清泉インターナショナルスクール(Seisen International School)小学5年生。

【音楽の学び】
4歳よりヴァイオリンを始める。ヴァイオリンを勅使河原真実、ヤメン・サーディーの各氏に師事。ピアノとソルフェージュを石岡久乃氏に、8歳より作曲とソルフェージュを三瀬和朗氏に師事。

【趣味・特技】
テニス、工作、お絵描き、作曲、即興演奏。

【主な受賞歴】
第9回 日本ヴァイオリンコンクール ソロ部門 第1位(7歳)/第10回 日本ヴァイオリンコンクール ソロ部門 第1位(8歳)/第10回 桐朋学園全国ジュニア音楽コンクール 小学校低学年の部 第1位/第20回 チェコ国際音楽コンクール 全カテゴリー最優秀演奏者賞・チェコ楽曲賞・パンペリシュカの部 第1位/第7回 JASTAフレッシュ音楽コンクール 合格・審査員特別賞/第7回 日本奏楽コンクール 準グランプリ・弦楽器部門 小学校中学年の部 第1位・Etoile賞/第79回 全日本学生音楽コンクール ヴァイオリン部門 小学校の部 東京大会奨励賞(全国大会出場)/第10回 ピッコロ・ヴィオリーノ・マジコ国際ヴァイオリンコンクール 第1位・聴衆賞

【主な演奏活動】
2024年12月 横浜みなとみらいホール「石田組 年末感謝祭」に石田組ジュニアとして出演/2025年5月 トッパンホール「第7回JASTAフレッシュコンサート」にソリストとしてJASTAストリングオーケストラと共演/第14回 ハマのJACK「金の卵」ソリストオーディション Xカテゴリー ファイナリストとして、NHK交響楽団メンバーによる弦楽五重奏と共演/2026年10月 イタリアの音楽祭「QUINTA GIUSTA」に出演、および「San Vito Musica」にてソロコンサート

憧れていたのは、13歳以下の世界大会

柳井さま
会場にて

今回が10回目の記念の回。課題曲は8曲、うち1曲は協奏曲の全楽章という内容で、真那さんが準備に使えたのは半年でした。

──このたびは、ご優勝おめでとうございます。まずは、このコンクールに挑戦しようと思ったきっかけから教えてください。

柳井
ピッコロ・ヴィオリーノ・マジコ国際ヴァイオリンコンクールは13歳以下のコンクールの中では世界的に有名なので、小さい時からずっと憧れていました。昨年も一昨年もコンクールのライブ配信を家で見ていて、皆さん大人みたいな演奏で、音も、もちろんすごく魅力的で、なんてレベルの高いコンクールなんだろう、しかもファーストラウンドからすべてがオーケストラとの演奏なんてすごいなと思いました!いつか自分もあのステージに立てたらいいなと何年も思っていました。

昨年は12月に入るまで日本のコンクールのための練習に集中していたので、準備は何もできていませんでした。2025年11月末に日本のコンクールが終わって何か次の目標に向かって頑張りたいと思った時に、ずっと憧れだったこのコンクールが頭に浮かびました。でもこのコンクールは課題曲が8曲もあってそのうち1曲は全楽章で、納得いくまで仕上げるにはある程度の長さの準備期間が必要です。本番までの半年でそんなにたくさんの楽曲を仕上げるなんてその時の私にはとても難しかったので、挑戦するのは大変なことだなと思いましたが、2026年は10周年記念ということもあって、受けようと決めました。オーケストラとこんなにたくさんの経験をすることは、それまではほとんどなかったので、すごく楽しみで本当に貴重な経験になりました。

──年上の出場者も多い中での優勝でした。年齢を意識することはありましたか?

柳井
私は、出場者の中で年齢が小さい方だと思いましたので、同じステージに立つなら、自分ができる中で最高のクオリティの練習にしようと思いました。1日24時間のうち、学校、ごはん、お風呂、寝る時間を引いた残りの時間を目一杯練習して、その内容も高いクオリティになるようにしようと自分の心の中の神様と約束しました。飛行機など移動時間は楽譜を見て自分のできていないところをチェックしたりイメージトレーニングしたり、ストーリーも作ったり変えたりしてと最後まで心の中の神様との約束を守りました。

コンクールが始まってからは、自分が小さいことはすっかり忘れていましたが、集合写真を見て自分は小さくて、みんなのミニチュアみたいな大きさなんだなと気がつきました。私は分数ヴァイオリンなのでフルサイズの楽器に負けないように、ホール全体に音を響かせるように弾くことを練習の時からいつも注意して、手に染み付くまでやったので、本番では細かいことは意識しなくても手が勝手にできるようになって、音楽の中に入り込んで演奏することができました。

サン・ヴィート・アル・タリアメントの8日間

到着した日、町なかのポスターの前で
到着した日、町なかのポスターの前で

会期は6月28日から7月5日まで。イタリア北東部の小さな町に、世界各地から21名が集まりました。真那さんの回答の中で、いちばん長くなったのがこの話です。

──前回のインタビューでは、イタリアで出会った「エレガント」という言葉を演奏に生かしたお話を伺いました。今回はそのイタリアの舞台で演奏されて、新しい発見はありましたか?

柳井
前回のインタビューのように、私は今回のコンクールを受ける前からイタリアが大好きで、すべてがエレガントで食べ物までもおいしくてずっと憧れの国でした!今回はそのイタリアでついにオーケストラと演奏できるという機会をいただいて、動画審査に合格した時から毎日待ち切れませんでした。

実際に演奏していちばん感じたことは、オーケストラ、スタッフ、お客様など関わったすべての方々が信じられないくらいやさしくてあたたかかったということです!!!

コンクールが行われた町サン・ヴィート・アル・タリアメントに着いてまず受付のために事務局を訪れたのですが、すべてのスタッフの方々がとてもフレンドリーで親切で、私の小さな質問にも笑顔でひとつひとつとても丁寧に答えてくださったので、「ついにコンクールが始まるんだ!」という緊張がほぐれました。この時に町の美味しいジェラート屋さんも教えていただいて、それ以来何回もその店を訪れました。

到着翌日の初めてのリハーサルはとても緊張していましたが、オーケストラの方々が皆さん笑顔で優しく私の話を聞いてくださったので、2回目のリハーサルからはワクワク楽しみで待ち切れませんでした!どのリハーサルの時も私の話をとても優しくよく聞いていただいて、毎回一緒に音楽を作っている気持ちでいっぱいになって、本番ではその気持ちがあふれ出して、本当に楽しくて嬉しかったです!本番はもちろんですが毎回のリハーサルも楽しくて忘れられない思い出になりました。

セミファイナルの日のことですが、ファイナリストになれたことが決まって帰り道、ホールの楽屋口の外でどこからともなく私がセミファイナルで演奏したモーツァルトが聴こえてきました。どう聴いても自分の演奏で、どこから聴こえてくるのかなって音の聴こえる方に走ってみると、さっき一緒に演奏したオーケストラの方々が輪になってその真ん中でコンサートマスターの方が携帯でYouTubeのライブ配信の私のモーツァルトの演奏をプレイバックしていたのです。皆さん携帯を覗き込んで、「彼女はこんな顔して弾いてたんだ!」っと盛り上がっていて、そこに私が登場して、皆さん本物が来た!と大騒ぎになったという素敵な思い出がありました。

楽屋口で桶の皆さんと
セミファイナルのあと、楽屋口でオーケストラの皆さんと

また、イタリアのお客様も信じられないほどあたたかかったです。セミファイナルの演奏終了後、楽器をしまってロビーに行ったらちょうど休憩時間だったのでロビーにお客様が多い時間帯だったのですが、イタリアのお客様に囲まれて、「あなたの演奏は本当に素晴らしかった!あなたは絶対にファイナルに進むと確信しているから、ファイナルも応援に来ますよ!頑張ってね!」というあたたかいお言葉をたくさんいただきました。生まれて初めて、私のサインを求める方々の列ができて(!)プログラムやイタリアの国旗、Tシャツなどやいろいろなものにたくさんのサインをしました。

そして皆さん、どの曲でどのようなことを感じられたか感想をたくさんお話ししてくださいました。びっくりするくらい褒めていただいたり、サインをしたり、お客様と写真を撮ったり、プレゼントをいただいたり……。決勝の応援に来ますよとおっしゃってくださった方々は決勝の演奏後にまた感想をたくさん伝えてくださいました。それは本当に嬉しくて、そこからたくさんのエネルギーをいただきました!

また、決勝の演奏が終わってステージからおりて退場する時には、最前列のお客様方から「Bravissima!」と歓声をいただいて、袖に行く通路でサインをくださいと言われたりもしました。この時も私の演奏が皆さんに伝わったんだとわかってとても嬉しかったです。

コンクール期間中はイタリアの方々のあたたかさに囲まれて、毎日とてもハッピーな気持ちで自分が作りたい音楽に飛び込むことができて、すべてが素晴らしい忘れられない経験になりました。

教えてもらったジェラート屋さん
教えてもらったジェラート屋さんにて

8曲すべてを、オーケストラと

決勝の共演はFVGオーケストラ。選んだのは、課題曲リストの中からの2曲と、日本の作品によるアンコールピースでした。

 ファイナル、FVGオーケストラとの共演
Photo:© 2026 Elia Falaschi / Phocus Agency
ファイナル、FVGオーケストラとの共演
Photo:© 2026 Elia Falaschi / Phocus Agency

──決勝はFVGオーケストラとの共演でしたね。演奏された曲と、その選曲理由を教えてください。

柳井

ファイナルでは課題曲リストの中からモーツァルトのロンド ハ長調、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番第1楽章を選び、自由曲のアンコールピースとして福田恵子先生の「赤とんぼ」の主題による小ファンタジーを演奏しました。

モーツァルトは私にとって、疲れている時でも落ち込んでいる時でもどんな時でも練習するのが楽しい作曲家なんです。このハ長調のロンドはワクワクするような弾んだ明るいメロディーがテーマで、いつか弾きたいなと以前から憧れていた曲だったので、3つのモーツァルトの選択肢からすぐに決めました。でも練習を始めてみたらとても難しかったです。方眼紙のように正確なリズムを保ちながらその中で優雅さや軽さ、キラキラした感じ、飛び跳ねるようなワクワクした感じを表現するのに最初はとても苦労しました。音程やアーティキュレーション、弓の配分、弓圧などを練習の始めにまずゆっくり繰り返し確実に両手に覚えさせて、次のステップとして自分の出したい音色が出せるように音の質感に集中して本番のテンポで練習する、というのを毎日繰り返しました。

私はすべての楽曲にオリジナルのストーリーを作り、それをイメージしながら弾いているのですが、いろいろな音色が出せるように、この曲にも何回もストーリーを作り直して遊びました。実はセミファイナルが終わった後にイタリアのお客様にいただいたエネルギーがインスピレーションになって新しいストーリーを思いつき、セミファイナルから決勝までの間に新しいストーリーを作り直したのです!

その最後に作ったストーリーのエンディングは、客席から皆さんが「素敵な曲だね!」「楽し〜いね!」「なんて素敵な演奏なの♪」と言いながら走ってステージに集まってきて、最後はお客様とオーケストラと私とみんなでステージで踊りながらパーティーをするというお話です。曲の終盤にこのストーリーをつけたことで、さらに曲が盛り上がって、練習がもっと楽しくなったところで決勝本番を迎えました。

コンクール終了後、私のロンドの演奏の抜粋がViolin Channelさんで放映されたのですが、ちょうど曲の最後の部分が抜粋されていて、私が伝えたかったこの曲の素敵なところが皆さんにも伝わったのかなと思ってとても嬉しかったです。

ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番の第1楽章は昔弾いたことがある曲でした。前から大好きで思い入れがある曲ですが、10歳になった私のバージョンアップした演奏になるように、すべてのテクニックや音色を一つ一つやり直しました。この曲はこれまでピアノ伴奏や弦楽オーケストラとしか弾いたことがなかったので、リハーサルで初めてフルオーケストラと合わせた時はたくさんの楽器の音が聴こえて、すべての音と音が合わさって、本当に楽しかったです。

曲の後半でオーケストラによる長い間奏があるのですが、これをリハーサルで初めて舞台の真ん中で聴いた時は、オーケストラがあまりに素敵で嬉しくなって、顔がニコニコ笑顔になっちゃって、からだも踊り出してしまいました。リハーサルを見ていたママが、「全部素晴らしかったけど、間奏のところはニコニコしすぎて曲のイメージとあまりにも違う様子になっているからもう少しシリアスな曲のイメージに合った様子の方が良いかもしれないね」といってくれて、確かにビデオを見たらその通りでした。本番では間奏の間もとても楽しむことができて、タイムマシンでもう一度あの時に戻って、あの素敵な経験をしたいなといつでも思います。

赤とんぼは日本の作曲家の福田恵子先生の曲です。今回は国際コンクールなので日本の素敵なところを海外の方々に紹介しようと思い、習っている作曲家の三瀬先生からこの曲をご紹介いただきました。初めて楽譜をいただいた時は、重音も多くてテクニックが難しい!と思いました。どんな曲か聴いたことがなかったので、楽譜にあるダイナミクスに合わせていろいろとストーリーを作りました。

実はこの曲も決勝前日の夕方に新しいストーリーを作り直しました!というのも最後に作ったストーリーに少し飽きてしまった頃で、本番前日なのにあまり盛り上がらない演奏になってしまっていて、「よし、新しく作ろう!」となったのです。新しいストーリーで練習してママに聴いてもらったらママが泣いちゃって、私もストーリーに入り込んで涙が出てきて、というのが決勝前日の夜の出来事で、本番でもストーリーの中に飛び込んであっという間に演奏が終わってしまいました。

オーケストラとともに
Photo:@piccolo violino magico
オーケストラとともに
Photo:@piccolo violino magico


──前回は、練習中にピアノの旋律を頭の中で歌うとお話しくださいました。本物のオーケストラとの共演はいかがでしたか?

柳井
今回はファーストラウンドからの全8曲中、アンコールの無伴奏を除いた7曲すべてがオーケストラとの演奏でした。私は、スコアを見て読んでお勉強をするのが楽しくて昔から大好きでしたので、本番までの半年間はすべての曲においてスコアをよく読みました。

例えば、ここはソリストが1stヴァイオリンと同じメロディーを弾いて一緒に楽しむところだな、ここからは2ndヴァイオリンが入ってきて仲間が増えて嬉しいなというところを楽しんでしよう、ここはチェロに音をバトンタッチしてどうぞって受け渡すところ、ここはチェロとソリストがハーモニーを作って楽しむところだからチェロがどんな音を出すかよく聞いて楽しもうなどと、1人で家で練習する時もオーケストラのメロディーを頭の中で歌って、それぞれの楽器とアンサンブルすることを大切に練習しました。私の周りにはいつもオーケストラがいると思って、透明人間のオーケストラと一緒に練習していましたので、本番ではそれが現実になって、オーケストラがどう演奏するかによって自分もそれにこたえたり、弾き方を変えてみたり、一緒に音楽を作る時間がすごく嬉しくて、楽しかったです!

送り出してくれた言葉

ファイナルの舞台で
Photo:© 2026 Elia Falaschi / Phocus Agency
ファイナルの舞台で
Photo:© 2026 Elia Falaschi / Phocus Agency

日本を発つ前の最後のレッスンと、決勝当日の朝。真那さんは2人の先生の言葉を挙げてくれました。

──指導されている先生方からは、今回に向けてどんな言葉がありましたか?

柳井

習っている勅使河原先生からは、コンクール前の最後のレッスンが終わった後に「順位のことは考えないで、いつも通りあなたらしく楽しく演奏してね」と仰っていただきました。また、先生がよく仰る「練習は悪魔のように、本番は天使のようにね」とアドバイスいただき、いつもと違うこととして今回はぎゅっとしばらくハグしてくださり、ちょうどきたバスに先生は乗られました。いつも通りの先生のご様子に、私は私らしい演奏をしていいんだなという気持ちになり、そのままで良いのよと安心して送り出してもらえたように思いました。バスが見えなくなるまで手を振ってから、いよいよ日本を出発するんだなと思ったのを覚えています。

また、ヤメン・サーディー先生にも習いましたが、ちょうどコンクール期間中先生はコンサートのために来日中で日本からセミファイナルのライブ配信を見てくださっていました。決勝の日の朝、とても先生らしい素敵なメッセージをいただいて、「そうだ!今日は今まで作ってきたストーリーの中に入ってオーケストラの方々とmake musicするコンサートの日だったんだ!」と思い、ついにこの日が来たんだとワクワクする気持ちで本番に向かうことができました。先生方には感謝の気持ちでいっぱいです!

名前が呼ばれた瞬間、そして聴衆賞

演奏を終えて、客席へ
Photo:© 2026 Elia Falaschi / Phocus Agency
演奏を終えて、客席へ
Photo:© 2026 Elia Falaschi / Phocus Agency

第1位には奨学金と、イタリアの製作家ファビオ・ピアジェンティーニさんによるヴァイオリンが贈られます。聴衆賞は、客席の投票で決まります。

──結果を知った瞬間は、どんなお気持ちでしたか?

柳井
結果発表の時はとてもどきどきして、1位になれますようにとずっと神様にお願いしていたのですが、最後ついに私の名前がよばれた時は、それはもう絶対に忘れられない、どれだけ嬉しいか自分でもわからないくらいの喜びの瞬間でした。

名前が呼ばれてステージに上がった時、これは夢なのかな?それとも幻?本当に現実?と思いましたが、次の日の朝、お褒めのメッセージをたくさんの方々からインスタグラムなどでいただきました。憧れのヴァイオリニストからも、私を応援してくれている知り合いではない方々からもいただいて、あっ!なんと!これは、本当に、現実だったんだ!と、思いました。心の中が、目にはっきりと見えるほどの喜びで溢れていました。ファーストラウンドの時から、私が大好きな音楽をみんなにも好きになってもらいたくて、演奏して音楽を作るんだ!と思ってそれをすごく大切にしていましたから、「あっ!きっとそれが伝わったんだな」と、思いました。

名前がよばれて、ステージに上がったら、審査員の方々にだっこやハグをしてもらったりしてすごく楽しかったです!またあの時と、まったく同じ気持ちにもどりたいなと今も思うぐらい嬉しい気持ちでした!

──客席の投票による聴衆賞も受賞されました。聴いてくださった方々に選ばれたことを、どう受け止めていますか?

柳井
私は今回のコンクールは「コンクール」と思わないで「コンサート」と思って、自分が大好きな音楽をお客様にも大好きになってもらえるように、そしてみんなが私の音楽のファンになってもらえるようにということをいちばんの目標にしていましたので、聴衆賞に選ばれたのは本当に嬉しい瞬間でした。

今回は曲数が多いのに準備期間が短かったので、本番までの半年間は練習の量も質もどちらも最大限になるように、練習の時は右手左手すべての動き、音程、弓の配分、弓の圧力、姿勢、ダイナミクス、音色などすべてが完璧になるまで何回でも繰り返して練習しました。

それはヴァイオリンが上手くなりたかったから、コンクールで良い結果を出したかったからというのはもちろんですが、本番でいちばん素敵な演奏ができるように、1人でも多くのお客様に私の音楽が伝わって、その音楽を好きになってもらえるといいなと思ったからです。なので、セミファイナルの後にイタリアのお客様に囲まれてあたたかいメッセージをいただいた時はとても勇気がでました!

優勝できたことはもちろん嬉しいですが、お客様に私の演奏が伝わって、私が大好きな音楽をみんなも大好きになってもらえたことは何よりも嬉しかったです。私もお客様からいただいたエネルギーのおかげでますますヴァイオリンという楽器が好きになって、もっともっと音楽が好きになりました。聴衆賞という形になって賞をいただけたことは何よりも誇りに思っていますし、私の大きなエネルギーになっています!

授賞式で、製作者のファビオ・ピアジェンティーニさんと
授賞式で、製作者のファビオ・ピアジェンティーニさんと
Photo:Elia Falaschi

──副賞はファビオ・ピアジェンティーニさん製作のヴァイオリン。受け取ったときのお気持ちを教えてください。

柳井
こちらの副賞は、コンクールが始まる前にコンクールのInstagramで紹介されていたのですが、楽器の中板に製作者から勝者へのメッセージが書かれる様子が動画になっていて、楽器がいただけるなんてすごいなと思って見ていました。ステージの上で本物を受け取った時は、動画で見ていた楽器が本当にもらえて、本当にワクワクして、夢のように思いました。

いただいた楽器はフルサイズですが私はまだ分数サイズなので、早く大きくなっていろいろな曲を弾いてみたいと思っています。授賞式の後、製作者のファビオ・ピアジェンティーニさんとお話させていただいて、もともとイタリアのクレモナで工房を始めて、現在はトスカーナ地方に工房をお持ちと伺いました。イタリアの楽器なので弾けるようになったらまずはイタリアの作曲家の曲を弾いてみたいなと思っています。

この一年で変わったこと、これからのこと

インタビュー

前回のインタビューは、真那さんが9歳のときでした。

──前回のインタビューから、成長したと感じることや新しく挑戦したことはありますか?

柳井
コンクールに挑戦することで、テクニックはもちろんですが、考える力が大きく成長したと思います。楽譜を読むことや、アンサンブルの方法についても段々と自分で考えて、やり方を研究することができるようになってきています。

いちばん大きな成長は、毎日の練習をすべて1人でできるようになったことです。小さい時はママが一緒に練習してくれて、少しずつ自分でできることが増えてと成長してきましたが、今回のコンクールからはすべて1人で練習するようになりました。1年前も自分はそれまでより大きく成長したと思っていましたが、今になって1年前の自分の演奏を見るとできていないことだらけで「ベイビーまなちゃん♡」と思ってしまいます。

コンクールに挑戦することで、ヴァイオリンという楽器がもっともっと好きになり、たくさんのことができるようになりましたので、挑戦して本当によかったなと思っています。

柳井さまポスター
公演ポスターの前で

──前回は「愛の喜び」を弾きたい、自作の曲を演奏したいとお話しくださいました。その後の挑戦と、今の夢を聞かせてください。

柳井
実はクライスラーの「愛の喜び」は残念ながらまだ弾く機会がないままなのです。この一年はいろいろなコンクールの課題曲ばかりでしたので、これからはコンクールにとらわれずにいろいろな曲に挑戦したいと思っています。今度こそ近いうちにコンサートで愛の喜びを演奏できるように、早速始めたい気持ちでいっぱいです!

自分の作曲については、小さな発表会で自作の「Happy Birthday!」という曲を演奏しました。書きためたものがたくさんあって、今も新しい曲を書き進めています。少しずつ披露できたら良いなと思います。

2026年10月には、本当に嬉しいことにまたイタリアに戻ってコンサートに出演させていただきました。2日間連続のコンサートで、しかもコンチェルトの全楽章を演奏するというスペシャルな内容でした。今度こそ夢だったコンサートをすることができました。ブルッフのヴァイオリン協奏曲を全楽章演奏しましたが、お絵かき付きのストーリーを本にして作って、練習の合間に絵も文章もどんどん書き足していたので、練習もすごく楽しかったです。私にしか出せない音色をたくさん盛り込んだスペシャルヴァージョンになるように、イタリアのお客様に楽しんでいただけるようにと、毎日新しいアイディアやインスピレーションを盛り込みました。

柳井さま演奏中
2026年10月、イタリア・ポルチアでのコンサート

ピッコロ・ヴィオリーノ・マジコの時に応援してくださったイタリアの聴衆の方々が、たくさん聴きにきてくださって、とても嬉しかったです。共演者、スタッフ、聴衆の方々はやはりとてもあたたかく、サン・ヴィート・アル・タリアメントに到着した日は、まるでおうちに帰ってきたように感じました。

今回は私のことを覚えていてくださった町の方に声をかけていただいて、ジェラート屋さんでジェラートを食べたり、2026年10月のコンサート後、スタッフさんのご自宅でパスタを作っていただいたり、共演のピアニストの方々ともたくさんの思い出ができました。音楽を好きになってもらうことで、そこから人と人の交流が生まれて、音楽をやっていて本当に良かったなと心から思いました。

柳井さま交流
2026年10月のコンサート後、スタッフさんのご自宅で

来年2027年はありがたいことにヨーロッパでのコンサートのお話をいくつかいただいていまして、すでにそれらに向かって毎日練習し、新しいレパートリーを増やしているところです。

今後の夢は、私にしか出せない音や私にしかできない演奏をもっと研究することです。演奏中にプログラムや時計を見るひまをお客様に与えないくらい皆さんに心から楽しんでいただいて、また聴きたい!と思っていただけるようなヴァイオリニストになりたいです!そしてお客様にもっともっと音楽が好きになっていただきたいです。

──国際コンクールや海外の舞台に挑戦したい同世代の方へ、メッセージをお願いします。

柳井
音楽で、私がいちばん大切だと思うことは、テクニックはもちろんそうですけれども、自分が大好きな演奏をして、その音楽をみんなにも大好きになってもらえるような気持ちで楽しむということが音楽にとってとても大事だと思います。

閉幕のパーティーで、コンクールのスタッフの皆さんと
閉幕のパーティーで、コンクールのスタッフの皆さんと
柳井真那information

2027年はヨーロッパ各地での演奏が予定されています。詳細はInstagramにて随時公開予定です。

インタビューを終えて──編集後記

お客様に、自分の音楽を好きになってもらいたい。真那さんが今回いちばん大切にしていたのは、そのことでした。だから「コンクール」ではなく「コンサート」だと思って舞台に立った、と話してくださいました。

半年で8曲を仕上げ、そのほとんどをオーケストラと演奏するという日程のなかで、真那さんが重ねていたのは、一つひとつの曲に物語をつけては作り直す時間でした。セミファイナルのあとに客席からもらったエネルギーで、決勝の曲の物語を書き換える。本番の前日にも、また新しい物語を作り直す。その積み重ねが、客席の投票という形で返ってきたのだと思います。

ホールの楽屋口の外で、オーケストラの皆さんが携帯電話を囲んで真那さんの演奏を聴いていたという場面が忘れられません。言葉を尽くさなくても、音楽は伝わるのですね。

柳井真那さんのこれからの歩みを、心から応援しております。

このたびは貴重なお話をありがとうございました。

2026年10月、アリゴーニ劇場でのコンサート後、客席にて