第50回ピティナ・ピアノコンペティション【特級 グランプリ・文部科学大臣賞】西山響貴さんにインタビュー!

第50回ピティナ・ピアノコンペティション【特級 グランプリ・文部科学大臣賞】西山響貴さんにインタビュー!

2026年8月21日(金)、サントリーホール 大ホール(東京都港区)で開催された「第50回ピティナ・ピアノコンペティション」特級において、グランプリならびに文部科学大臣賞、スタインウェイ賞を受賞された西山響貴さん。幼稚園の年長で初めてピティナのコンクールに出場してから、20年近くピティナの舞台に立ち続けてきました。特級への挑戦は、今回が4度目です。今回は同コンクールをはじめ、これから音楽コンクールに挑戦する方に向けてお話を伺いました。


取材・文|編集部

自分にピッタリな音楽コンクールが見つかる!国内外の音楽コンクール情報や結果まとめをわかりやすくご紹介し、次世代の音楽家や音楽ファンの皆様に寄り添います。


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プロフィール

西山 響貴(にしやま ひびき/Hibiki Nishiyama)
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東京都出身・富山県在住/桐朋学園大学院大学(修士課程)1年

5歳よりピアノを始める。東京都立武蔵高等学校を経て東京大学理科一類に入学、同文学部人文学科美学芸術学専修課程を卒業。2019年、モーツァルテウム音楽大学夏期講習にてディーナ・ヨッフェ氏に学ぶ。これまでに若尾佳代、椎野伸一、大野眞嗣の各氏に師事。現在、ピアノを田部京子、山本貴志、鶴見彩、室内楽を銅銀久弥の各氏に師事。

趣味・特技

ハロー!プロジェクトのライブに行くこと、将棋(見る専門)、読書、あてもなく歩くこと

プロフィール写真:© かくたみほ

主な受賞歴
ピティナ・ピアノコンペティション
第50回(2026年) 特級 グランプリ・文部科学大臣賞・スタインウェイ賞/B級・C級 金賞/E級 ベスト賞/D級・Jr.G級・G級 全国大会入選

全日本学生音楽コンクール
第68回(2014年度) 小学校の部 東京大会 第1位・全国大会 入選/第71回(2017年度) 中学校の部 東京大会 第1位・全国大会 第3位

ショパン国際ピアノコンクール in ASIA
第20回 ソロアーティスト部門 アジア大会 金賞・ソリスト賞

全国大学生ピアノ選手権
第1回 グランプリ(「東京大学ピアノの会」チームとして)

主な演奏活動
2023年、めぐろパーシモンホールにて「Essai de musique n°1 —ショパンに寄せて—」を開催。東京大学室内楽の会を中心とした有志による室内管弦楽団とショパン:ピアノ協奏曲第1番を演奏。2024年、タカギクラヴィア松濤サロンにてリサイタル。同年、パルテノン多摩小ホールにて全国大学生ピアノ選手権グランプリ受賞記念コンサート。2026年、渋谷ホールにてリサイタル。同年、桐朋学園大学院大学重奏研究室内楽コンサートにて銅銀久弥教授とショパン:チェロソナタを演奏。東京大学柏葉会合唱団定期演奏会、むさしのジュニア合唱団「風」定期演奏会などでピアノ伴奏を務める。

第50回ピティナ・ピアノコンペティションを終えて

西山さん受賞
© 木川宗一郎

──グランプリ受賞、おめでとうございます。終えた今のお気持ちをお聞かせください。

西山
ありがとうございます。受賞から1週間半ほど経ちましたが、終わった直後は本当に驚いていて、実感もありませんでした。この1週間ほど、いろいろな方とお話しする機会をいただくなかで、だんだん実感が湧いてきました。

同時に、コンクールで賞をいただいたからといって、実力そのものが変わるわけではありません。評価をいただいたからこそ、自分で分かっている欠点や、これから伸ばしていかなければと思っている部分に、きちんと向き合わなければという気持ちが、いま強くなっています。

──ピアノを始められたきっかけを教えてください。

西山
母は学生時代にピアノを習っていて、実家には祖父から贈られたグランドピアノがありました。僕が5歳の頃、そのピアノを自宅に移すことになり、強い興味を示して弾いていたのが始まりだと聞いています。「じゃあ習わせてみようか」という流れだったようで、家にピアノが来たことが、大きなきっかけになりました。

──初めてピティナのコンクールに参加されたのは、いつごろですか。

西山
初めて受けたのは、幼稚園の年長のときだったと思います。初めてYouTubeに演奏が載ったのは、小学2年生、2010年に金賞をいただいたときです。

──幼稚園の年長から参加されてきた西山さんにとって、ピティナとはどのような存在でしょうか。

西山さま
© かくたみほ

西山
「ずっと、そこにいた」という感じでしょうか。

毎年のように参加していましたから、小中学生時代の夏の思い出といえば、ほとんどピティナ一色です。その一方で、ピティナを受け続けてきた人のなかでは、「どっぷり」というタイプではなかったようにも思います。ピティナに限らず、コンクールという存在にはずっと、少し心理的な距離を感じていました。たとえ結果が良いときでも、自分自身の演奏に対する感触と審査の結果が噛み合わないことも多かったですし、音楽の面白さや喜びと競争がどう共存するのか、ということには疑問もありました。

そんな気持ちと同時に、そこはかとない悔しさもありました。Jr.G級やG級に出ていた頃は、結果が出るところまで届いていませんでした。少し背伸びをしすぎていたのだと思います。同世代のとても上手な方たちが金賞を取って、ピティナでいろいろな機会をもらっているのを見て、羨ましく感じることもありました。自分にはあまり縁がないのかな、という気持ちもあったと思います。

でも、目標を持ってさまざまな課題曲に取り組むのはとても楽しく、欠かすことのできない大きな学びになっていました。そして何より、一つ一つのステージが大切な演奏機会でした。評価され、比較される緊張感の中で、少しでも多くの審査員に納得してもらえる演奏を目指すというのは、ある意味で芸術の本質に近い営みだと、今となっては思います。今日聴かれるクラシック音楽の作品は、厳しい競争と時代の淘汰を経て「生き残っている」ものなのですから。

そんな経験を小さな頃から継続的に、楽しみながらできたことには、感謝の気持ちでいっぱいです。ピティナには、本当に育ててもらったなとしみじみ思います。

──20年近く続けてこられたなかで、ピアノをやめたいと思ったことはありますか。

西山
ピアノをやめたいと思ったことは、ないんです。ピアノを習い事のような対象として考えたことはありません。素晴らしい曲がたくさんあって、それを弾くのは楽しいですし、ずっと弾いていたい。ピアノを弾くことは、自分にとってごく自然なことなんです。

ただ、先生に習いに行くのをやめるとか、コンクールを受けるのをやめるとか、音楽の道に進むのをやめるといったことは、何度も選択肢にありました。でもそれと、自分がピアノをやめる、音楽をしなくなるということは、まったく別のことでした。

──大学時代も、特級への挑戦を続けてこられました。特級を選ばれた理由を教えてください。

西山
特級を受け始めた一番のモチベーションは、「人生で一度はサントリーホールでコンチェルトが弾きたい」というものでした。大学2年生の時にはじめて実際に受けてみて、それまでもお世話になっていたピティナのありがたみを、より強く感じるようになりました。

本当に手厚いんです。このレベルでここまで充実した講評をいただけるコンクールは珍しいですし、室内楽が課題にあるだけではなく、「室内楽研修会」という学びの機会も与えてくれる。そしてなによりも、二次予選に進んだ段階で、一人ひとりにフォーカスして広報してくれるんです。

──一般大学に通いながら、特級にはどのような思いで臨まれていたのでしょうか。

西山
一般大学に通う中、音楽の世界に少しでも近づくためのフックというか、取っ掛かりのようなものを探していました。それがあるとしたら、ピティナ特級だろう、と思いました。

YouTubeやSNSを通じて、演奏やパーソナリティが届くかもしれない、というのはとても大きなことです。演奏機会も限られる中で、唯一世界と繋がれるチャンスでした。そして、音楽に真剣に取り組む同世代と同じ土俵で評価を受けられることはとても嬉しく、「もう少し挑戦を続けてみよう」という勇気をもらいました。

毎年夏、「何か起こってくれ!」と遠くから小石を投げ込むようなつもりで特級を受けていましたね。

──特級は今回が4度目の挑戦でした。結果が出なかった年は、どのような気持ちで次に向かわれていましたか。

西山
1回目は三次予選まで進んで、2回目と3回目は二次予選まででした。なかなか1回目の結果を越えることができず、もどかしい思いがありました。二次予選は大きな壁でしたね。

でも、落ちて「まさか」という気持ちになったことはありません。いつも自分のなかで、何か足りないという課題を感じていました。次に進めないと準備した曲を弾けないので、その意味では毎回とても残念でしたが、結果には納得していて、まだ次に進めるレベルには達していなかったんだな、と思っていました。

審査員の先生方から毎回とても丁寧な講評をいただけるので、そこから学んで、前回より何かを修正しようと取り組んできました。継続的に習っている先生にご指導いただくのと、年に一度、10人近い先生から一つの演奏にまとめてフィードバックをいただくのとでは、まったく違う学びの機会なんです。音楽大学に通っていたわけではなく、レッスンも頻繁には受けられていなかったので、自分なりに手探りで進んでいく中、自分の現在地を確かめることができるという意味でも、ありがたかったですね。

──今回の挑戦で、これまでと変えたことはありますか。

西山さま
© 木川宗一郎

西山
今回はとにかく、等身大で挑むことを意識していました。

自分の器のようなものがあるとして、その器を広げることで実力が大きくなるのだとしたら、前回までは、その器にもっと働きかけたいという気持ちがありました。もっと大きな音楽をしたい、もっと深い音楽をしたい。憧れのピアニストが持っている、自分とは違う要素を自分のものにしたい。そういう機会としてコンクールを使っていた面もあったんです。

でも今回は、各ステージでいま自分が出せる一番よい音楽をするということに集中して、結果にこだわらず、力まずに臨もうと思いました。自分の現状の器の大きさに対して、縮こまることもせず、そこを無理に広げていくようなこともせず、身体的にも精神的にも自然体でいられることを一番大事にしました。

その意識のおかげか、今回のコンクールはあまりプレッシャーを感じず、一つ一つのステージを楽しむことができました。それが結果にもつながったのかもしれません。

──今回の特級に向けた準備期間について教えてください。

西山さま
© 木川宗一郎

西山
去年の特級が終わって、秋ごろから少しずつ構想は立てていました。背伸びをしすぎず、各ステージで自分の良さを最大限見せられる選曲をすることと、構成面も含め、今の自分にとって心から「弾きたい」と思えるプログラムにすることの2点を意識しました。

コンチェルトをショパンの2番にすることは早いうちに決めていたので、卒論を書き終わった1月ごろから取り掛かりました。プログラム全体の骨格は、曲に取り組みながら何度か再考して、3月末ごろに確定しましたが、全ての細部まで決まったのは申し込みの直前(5月中旬)でした。

練習の際は、どの音符にも固有の生命があり、かつその総体として楽曲の全体像が届くような演奏を目指しました(それが現在自分の持つ技術で可能な曲を選びました)。同時に、自分自身が無理しないで自然な状態であることも気をつけました。入れ込みすぎず、健康に気をつけて、よい距離感で臨めたなと思います。

──二次予選で演奏された舟歌は、17歳ごろの演奏もYouTubeで公開されています。この曲との向き合い方で、変わったことはありますか。

西山
この曲はずっと一番好きな曲で、弾き続けてきた、とても長い付き合いの曲です。YouTubeに上がっている演奏は、おそらく初めてこの曲に取り組んだ頃のものです。

いま聴くと足りないところにもたくさん気づきますが、そのときにしかない新鮮さのようなものもあって、自分で言うのはまだ早いかもしれませんが、若いな、若くていいな、とも思います。

この曲が本当に好きなんだということが伝わってきますし、あそこはこうしたい、ここはこうしたいと、まとまってはいないけれど、いろいろなことをしようとしている。そこがいいなと思います。そこから時間が経って、もう少し現実的にまとめていかなければ、というところもありつつ……綺麗な言葉でまとめるのは難しいですね。

何度も弾いてきた曲なので、その時々の気持ちや、いま自分の音楽がどうなっているのかを確かめるような曲でもあります。

▶ 二次予選の演奏は、ピティナ特級公式サイトでご覧いただけます

──憧れのピアニストを教えてください。

西山
たくさんいますが、一番はラドゥ・ルプーです。

──ルプーのどのようなところに惹かれますか。

西山
すべてが必然的に流れていく感じがするんです。

世界で実際に起こることは、必然的でもあり、偶然でもあります。決まっているわけではないけれど、必然的にそうなってしまう。そういう必然を、音楽から引き出してくれるんです。

説明するなら……世界は物理法則に従って動いています。物理法則に従いながら、その中でいろいろな偶然が作用している。ルプーの音楽にもそういう感じがあって、自然の中で全部が理にかなっているのに、その中に揺らぎがあるんです。

風がふっと吹くのも偶然で、ただそこに風が現れる。でもそれが、吹かされた風ではなくて、吹いた風になる。天気が変わっていくのも、何かの偶然が関わり合って、雨が降ったり、雷が鳴ったりする。そういう、世界そのものを音楽に感じるんです。

簡単に言えば、美しい。でも、美しくあろうとしているのではなく、そこにあるものがたまたま美しい。まだ一言で表す言葉を見つけられていないんですけれども。しかも、何気なくあるのに大きい。

大きく見せようとして大きいんじゃなくて、大きいものがそこにある。そういうところに惹かれています。

──ファイナルでショパンの協奏曲第2番を選ばれた理由を教えてください。

西山
まず、ショパンという作曲家が大好きです。協奏曲は1番を弾いたことがあったので、2番もいつか弾きたいと思っていました。

1番ではなく2番にした理由はいろいろありますが、2番のほうが、ショパンが自然に書いているように僕には感じられるのです。1番には少し、大きく見せようとするような要素を感じます。2番には、若いショパンの瑞々しい感性がそのまま息づいているように感じて、昔からとても好きな作品なんです。

もう少し現実的なことを言えば、弾きたい協奏曲は本当にたくさんある中で、いまの自分の能力で一番曲の魅力を引き出せるのはショパンだろう、という考えもありました。その中でも、2026年の自分により共鳴するのは2番だったのです。水面下でいろいろ考えつつも、ほとんど直感ですね。10年前から応援していたエリック・ルーが、2025年のショパン・コンクールで2番を弾いて優勝したことも、きっかけの一つだったかもしれません。

──ファイナルは、プロのオーケストラとの初共演でもありました。どのような感覚でしたか。

西山さん
© 木川宗一郎

西山
前日にリハーサルがあり、そのときが、プロのオーケストラに合わせていただく初めての機会だったと思います。そこで、音でコミュニケーションが取れていると感じたんです。こうしたいと伝えると、それに合わせてくださる。

リハーサルでは、どちらかというと「合わせよう」という意思を伝えながら進めたのですが、本番はもっと信頼して、きっと合わせてくださるだろうという気持ちで臨みました。ショパンの協奏曲はピアノが主役で、オーケストラが寄り添ってくれる曲なので、その特質を生かすためにも、自分の音に意識を向けて、委ねました。

とても楽しかったです。普段は一人で舞台に立つことが多いので、あの大きな空間でたくさんの方と一緒に音楽を作っていく経験は本当に初めてで、特別な時間でした。

──ファイナルのお衣装は、柔らかな生地のシャツでした。どのように選ばれたのでしょうか。

西山
あれは、たまたま家にあった、たぶん父の服なんです。父がもう着られなくなって、あまり着ていなかったもので、これいいんじゃないかな、と着てみたら思った以上にフィットしたんです。

スーツは脇の下が張るんですよね。動くときにそこが邪魔になって、腕を自由に使えないのがいつも困っていました。作りがかっちりしているので、力も入ってしまう。それで、脇の下をこっそり切ったりしてなんとか対処しようとしてきましたが、あの服はそういう必要もないですし、生地も柔らかくて、自然体でいられるんです。

見た目としても落ち着くんですよね。自分が着飾って出ていくというよりも、音楽の中に入っていくという感じがして、音楽に集中できるのです。

──グランプリ発表の瞬間、西山さんだけが目を閉じ、一拍おいてから驚いたように目を開けられたのが印象的でした。あのとき、どのようなことを考えていらっしゃいましたか。

西山
無になっていた、というのが一番近いと思います。呼ばれるとはあまり思っていなかったのですが。

結果はもう決まっているし、ドキドキしてもしょうがない。そのときに何を思っても結果は変わらないですし、入ってくる情報を減らしたかったんです。それに、目をつぶっているほうが心が落ち着くので、そんな感じだったのだと思います。

▶ ファイナルの演奏は、ピティナ特級公式サイトでご覧いただけます

──大学では、卒業論文にポール・ヴァレリーの音楽論を選ばれたそうですね。ヴァレリーのどのようなところに共感されているのでしょうか。

西山
伊藤亜紗さんの『ヴァレリー 芸術と身体の哲学』という本を読んだのがきっかけで、ヴァレリーに興味を持ちました。

僕にとってのヴァレリーは、どうにもならないもののどうにもならなさに絶望しながらも、それを知性によってなんとかしようとする強い意志(あるいは執念)を持つ人です。僕にとって音楽もまた「どうにもならなさ」のひとつの現れです。ヴァレリーは自らの言葉を、僕は楽譜を音にするという行為を主な手段とするという違いはありますが、中心に抱える「どうにもならなさ」と、それに対するアプローチの方向性が似ているように感じます。

ただし、これはあくまで「僕にとってのヴァレリー」であって、ヴァレリー本人にとって正当な見方かどうかはわかりません。

──いまコンクールに挑戦しているお子さんや、保護者の方へ、メッセージをお願いします。

西山
コンクールは、やはり人と競うものです。その舞台で何を出せたか、結果として何が現れたかが評価され、ほかの人と比べられ、負けることもある。そうやって結果として現れてしまうのは、残酷なものだと僕は思うんです。

うまくいけばすごく嬉しいですし、もちろん勉強の機会にもなります。できる人にとっては、負荷がかかる分、大きく成長できる機会だと思います。いろいろな機会を与えていただける、いろいろな曲に挑戦できる場でもある。でも、自信ややる気を失わせてしまうような手ひどい挫折の経験になってしまうリスクもとても大きい。「コンクールでは一位以外幸せになれない」という言葉をどこかで聞いたことがあります。

コンクールの結果や人からの評価が伴わなくても、あなたが音楽から感じ取っているいろいろなものや、大切に思っている気持ちはほんものです。慌てなくても大丈夫です。

僕は、自分はこのままではうまくいかないと感じているとき、自分のせいだと思うのではなく、そこにたどり着く道筋や方法を知らないんだ、と考えるようにしています。

少しセンシティブな話になるかもしれませんが、先生の力というのは、いい方向にも悪い方向にもとても大きいんです。「こうなりなさい」と教えることはできても、そこにどうたどり着くかの道筋を示せることは、それほど多くない。それができる人がいい先生だと思いますし、相性もあります。

だから、できていないときに、自分に能力がないからだと諦めてしまうのではなく、時間が足りていないから、やり方がわからないからだ、と思ってほしい。やり方が分かる人、伝えられる人が、世界のどこかにはいるはずです。もちろん、自分でいろいろなものをよく観察して、自分に合う方法を考え、工夫することもとても大事です。

そうは言っても、持っている資質や、それこそ手の大きさなどの制約で、たどり着けないところもあります。それでも、気持ちと、探し続ける気力さえあれば、もっと良くなれるし、目指す姿に近づいていくことはできます。そのことを忘れないでほしいと思います。

自分の感覚を大事にしてほしいです。偉い人や親や先生がこう言っているから、こうすればいつかうまくいくはずだ、と思うのではなく、これならできるかも、と思える自分の感覚、体で感じる感覚を大事にしてほしい。そして、もし音楽が好きなら、その「好き」という気持ちを一番に持っていてほしいです。

音楽との関わり方は、コンクールで勝つことだけではありませんし、音楽を仕事にすることだけが唯一の道でもありません。むしろ、そうではない生き方のほうが広いと思います。コンクールの結果は本当にすべてではない。あなたの持っている音楽への愛情は、何にも代え難い尊いものです。それは、自分で守り抜くしかありません。

──最後に、今後の目標、将来の夢などをお聞かせください。

西山
さまざまな作曲家の作品を深く学んでいきたいです。尊敬してやまないピアニストたちの境地はまだまだ遠いので、一生かけて追求していきたいです。将来的には演奏のみにこだわらず、教育や普及活動、企画など音楽に貢献できることならなんでもやっていきたいと考えています。もう少し近い未来に目を向けると、特級グランプリという賞をいただき、演奏を深めるチャンスをいただいたので、国際コンクールへの挑戦なども視野に入れながら一層研鑽を積んでいきたいと思います。

将来の夢は、やはりクラシック音楽をきちんと後世につないでいくことです。クラシック音楽の面白さを、簡単にしたり省略したりして伝えるのではなく、奥深さはそのままに、でもいまより身近なものとして、今よりもっと多くの人に伝えられたらいいなと思います。

クラシック音楽は、上流階級のものとか、手の届かない崇高な世界にあるもののように思われがちですが、実はもっと身近な、当たり前の生活と地続きなものだと思うんです。一人ひとりの生きる当たり前の生活の中に、とても素敵なものが、崇高なものがある。音楽は、芸術は、そこに光を当ててくれるものだと思います。ときに逆説的にではあっても、生を肯定しようとするエネルギーが宿っているのです。

もちろんそれは、クラシック音楽やいわゆる「高級芸術」に限った話ではなく、今日主流の映画やアニメ、ポップミュージックといったさまざまなメディアにもそういう力があるでしょう。僕自身、そういったものの中にも、クラシック音楽と負けず劣らず好きなものがいくつもあります。けれどやはり、クラシック音楽は僕にとって途方もなく特別な存在です。たまたまクラシック音楽と出会い、たくさんの光を、生きる力を受け取ることができた人間のひとりとして、その光を絶やさずに繋いでいく責任を感じています。そのために自分には何ができるのか、これから探していきたいです。


西山響貴さんに一問一答

Q. 朝型ですか、夜型ですか

A. 夜型です!!

Q. 練習を始める前に、必ずすることはありますか

A. ルーティンは特にないのですが、ピアノと身体をゆっくり繋げていくのに5〜10分くらいとりとめもなく弾きます。

Q. 最近よく聴いている音楽は

A. ラドゥ・ルプーのライブ録音をよく聴きます。

Q. 好きな食べもの、苦手な食べものは

A. けっこうなんでも好きですが、最近はうなぎが特に好きかも。

Q. 本番前に必ず食べるもの、ゲン担ぎはありますか

A. 今年からですが、おにぎりで栄養補給をして、直前に「アリナミンメディカルバランス ソーダ風味」を飲むようにしています。

Q. 富山で見つけたお気に入りの場所は

A. 学校の周りが好きです。環水公園もおすすめです。

Q. 最近読んでおもしろかった本は

A. 伊藤亜紗『身体の美学入門』

Q. 実は苦手なこと、不器用だなと思うことは

A. 全体的にそんなに器用ではないです。探し物が下手です。

Q. もしピアノを弾いていなかったら、何をしていたと思いますか

A. ピアノを弾いていない自分は全然想像がつかないですが、音楽に限らず人間がつくる素敵なものの周りに人が集う場が好きなので、そういう営みのどこかに携わっていた気がします。

西山響貴 information

ピティナ入賞者記念コンサート
2027年3月7日(日) J:COM浦安音楽ホール「特級ガラコンサート」
2027年3月20日(土) 第一生命ホール「入賞者記念コンサート」
2027年3月21日(日) 第一生命ホール「特級グランプリ特別コンサート」

特級グランプリ褒賞公演
2026年11月20日(金) カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」
2026年11月28日(土) スタインウェイ&サンズ大阪
2026年12月3日(木) 豊洲文化センター「IHIピアノコンサート」
2026年12月5日(土) スタインウェイ&サンズ東京
2027年1月17日(日) すばるホール(大阪)
2027年1月21日(木) La Salle F(東京)
2027年4月以降 ヤマハコンサートサロン銀座・ヤマハグランドピアノサロン大阪&名古屋で予定

インタビューを終えて──編集後記

ファイナル当日、客席で演奏を聴いていた編集部スタッフのメモには、「音が言葉で語りかけてくるようだった」と書き残されていました。

取材では、一つひとつの質問に、例えを重ねながら丁寧に言葉を選んで答えてくださいました。「まだ一言で表す言葉を見つけられていない」とおっしゃりながらも、なんとか伝えようとしてくださる姿に、あの日の演奏が重なりました。

幼稚園の年長から20年近く、「ずっと、そこにいた」ピティナの舞台でつかんだグランプリ。西山さんのこれからの歩みを、心から応援しております。

このたびは貴重なお話をありがとうございました。

西山さま
© 木川宗一郎

第50回ピティナ・ピアノコンペティションの結果については下記をご覧ください

第50回ピティナ・ピアノコンペティション【全国大会】結果まとめ

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