11月1日に開催される全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部に出場する全30校が決定した。代表校の素顔に迫る本連載の第3回は、北海道・東海・東関東の代表のコメントを通し、それぞれの学校の代表決定までの裏側にあったドラマをお伝えしよう。
取材・文:オザワ部長
世界でただひとりの吹奏楽作家。神奈川県立横須賀高等学校を経て、早稲田大学第一文学部文芸専修卒。在学中は芥川賞作家・三田誠広に師事。 主著に『吹部ノート 12分間の青春』(日本ビジネスプレス)、『空とラッパと小倉トースト』(Gakken)など。小学校合唱部を描いた『とびたて!みんなのドラゴン 難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険』(岩崎書店)は2025年度の課題図書に選定。詳しくはこちら>>
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旭川明成高校吹奏楽部
昨年に続き、2年連続2度目の北海道代表に選ばれた旭川明成高校吹奏楽部。率いるのは、かつて北海道旭川商業高校を全国大会に5回導いている佐藤淳先生だ。
今年度、その道のりは平坦ではなかった。佐藤先生はこう語る。
「去年、全国大会に初出場したときの3年生には個の力があった。人数も33人いた。でも、今年の3年生は24人で、技術的に突出した者もいない。だから、今年度がスタートしたとき、3年生には『今年はあなたたちの代だから、昨年とは違う。去年の3年生のような突出した音楽的リーダーは希有であり、今年はチームでやっていくしかないよ』と言いました。きつい言い方に感じるかもしれませんが、去年とは違うんだということをみんなが認識することがまず必要だったんです」
理想論ではなく、現実を直視することで、今年のメンバーはスタートラインに立った。
「コンクールまでに一定のレベルまで達するのか、間に合うのか、という不安はつねにありました。でも、おもしろいもんで、最終的にサウンドは去年の同時期と比べても遜色のないレベルになった。『今年のほうがいいね』という人もいた。いい意味で誤算でした」
佐藤先生が今年選んだ自由曲は、ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲《「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調」より シャコンヌ》。ここでも佐藤先生は頭を悩ませたという。
「バッハの名曲ですが、コンクールで演奏するにはリスクもある。これでいいのかと考えましたが、僕も年齢を重ねてきて残りは限られているから、もう好きなことをやろうと。部員たちの青春がかかっているので、選曲にも責任はありますが、誰かの意見に左右されるのはもういい。最終的に自分が責任を取ろうと《シャコンヌ》に決めました」
全道大会(北海道大会)の演奏では本来の力を出しきれなかった。「時間は戻らないから、待つしかないね」と先生は部員たちに話した。
結果発表は特殊で、出演団体はロビーに集まり、小さなモニタでステージでの発表を見守る形式だ。代表枠はわずか2校。旭川明成の名前が響くと、一瞬、部員たちから歓喜の声が上がった。
「もしも代表に選ばれても、まわりに他校がいるから、喜び0.5秒と決めていました。そのとおり、部員たちは一瞬で静かになり、ホールを出て誰もいないところまで行ってから抱き合ってうれし泣きしていました」
次は全国大会。会場はアクトシティ浜松だ。佐藤先生は「天井が高いホールにバッハを響かせるのが楽しみです」と期待を口にした。
安城学園高校吹奏楽部
愛知県の安城学園高校吹奏楽部は、実に12年ぶりに東海代表に返り咲いた。顧問を務めて9年目の原田大雪先生にとっても、安城学園でコンクールの全国大会に出場するのは初めてのこと。
自由曲に選んだのはオットリーノ・レスピーギ作曲《バレエ音楽「シバの女王ベルキス」》だった。
「実は、4年前にも《ベルキス》を演奏しました。東海大会の会場も同じ長野で、僅差で代表を逃した思い出があり、個人的にはリベンジのつもりでした」
安城学園は全日本マーチングコンテストに14大会連続で出場しており、パワフルさはすでに備えていた。だからこそ、原田先生には秘策があった。
「音を大切にしようと。コンクールはガーッと鳴らしがちですが、うちは逆に観客に耳を傾けてもらえるようにきれいに奏でようと、特に弱奏部分にこだわって音楽づくりをしました。やはり繊細なところは難しいので、『こんな危ないところはカットしてしまおうか』と思ったこともありますが、たとえどういう結果になっても最後まで部員たちの力を信じようと貫き通しました」
結果は、東海代表3枠に食い込み、全国大会出場が決定。その要因を原田先生はこう分析する。
「部長を務める長野友香を中心に、3年生の結束力が強かったことが大きいと思います。最後の最後まで『勝負しよう!』『なんとしても代表を勝ち取ろう!』という思いが揺るがず、そのまま東海大会に臨めました。3年生は本当に人柄が良いんです。安城学園はもともとみんなで仲良く元気に活動してきましたが、中でも今年の3年生は人を大切にする子が多い。仲間を見捨てていかない。それが東海大会を突破できた原動力になったと思います」
表彰式の代表校発表で「安城学園高等学校」とコールされたときには、部員たちは大喜び。思わず原田先生もいっしょに歓喜に沸いた。その喜びが長すぎて、「もういいですか?」とアナウンスされるほどだった。
今後はマーチングの練習とコンクールの練習を並行しておこなっていくことになる。
「代表に選ばれた責任もあるので、全国大会では『安城学園が復活を遂げた』ということをみなさんに実感してもらえる演奏をしたいと思っています」
12年ぶりの安学サウンドが、ついに全国の舞台に帰ってくる。
千葉県立幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部
幕総オケ部にとって、今年は大きな変化の年となった。昨年まで全国大会で3年連続金賞受賞。しかし、指揮者の伊藤巧真先生が他校に異動となり、4月から山本孝先生が引き継いだのだ。その重圧は相当なものだっただろう。
山本先生は「1日1日を過ごすのも簡単ではなく、ただ諦めないことだけを考えていました」と語る。
「例年以上に難しい状況で、(幕総では3年生はコンクールに参加するかを春に選択するが)3年生が29人も残ってくれました。そこで自分が願っていたのは、とにかくメンバーにとってコンクールが良い思い出になってほしい、ということでした」
重圧を感じていたのは山本先生だけではない。部員たちにとっても、前年までの実績、自分たちを導く指揮者の交代は、強烈なプレッシャーだったはずだ。
「部員たちは本当に想像を絶する努力をしていました。音(ね)を上げてもおかしくない状況で、誰も投げ出したり諦めたりしませんでした。このまま進めば道が開ける、という確証もない中、先の見えない道を進んでくれた。立場や年齢に関係なく、その姿にはリスペクトを感じました」
自由曲はリヒャルト・シュトラウス作曲《楽劇「サロメ」より 7つのヴェールの踊り》。今年のメンバーの持ち味を活かせる曲として選んだという。
そして、何度も部員たちと真剣そのものの話し合いを繰り返しながら、音楽をつくり上げた。メンバーと歯車が噛み合うようになったのは東関東大会3日前だったという。
「ちょっと風向きが変わったかな、という感覚がありました。翌日もまた少し変化があり、当日の練習では『同じ方向を向けてきたかな』という実感がありました」
そして、山本先生と幕総オケ部は東関東大会のステージに立った。
「自分は去年まで客席で演奏を見ていたんですが、指揮台に立つとものすごい緊張感で、本番の記憶があまりないんです。ただ、自分たちができるものはすべてお伝えすることができたんじゃないか、という感覚はありました」
結果は金賞、そして、代表。山本先生は思わず涙を流したという。次も、先生にとっては初めての、幕総オケ部としては4年連続の全国大会だ。
「本当にありがたいステージなので、とにかくそこに立たせていただけること、今年のメンバーといっしょに演奏できることに感謝したい。そして、その思いを客席に届けながら、自然と隣に寄り添うような演奏をしたいと思っています。緊張感もありますが、部員たちと心からステージを楽しめるような全国大会にしたいです」
試練を乗り越えてきた新生幕総オケ部。今年も全国大会に出場する「オーケストラ部」は幕総だけだ。その唯一無二のサウンドに期待したい。




