2025年1月17日(金)戸塚区民文化センターさくらプラザにて行われた「第26回ショパン国際ピアノコンクールin ASIA」ショパニストA部門において金賞、ソリスト賞を受賞された平尾さん。
今回は同コンクールや音楽コンクールに挑戦される方へ向け、お話を伺いました。

取材・文|編集部
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プロフィール

平尾 青大 (ひらお あおと)
山口県宇部市出身 / 東京大学2年在学
2歳から音楽教室に通い、5歳でピアノを始める。
これまでに、横山純子氏、三隅香織氏に師事。
趣味・特技
趣味は料理と野球観戦(福岡ソフトバンクホークス)
受賞歴
第66回山口県学生音楽コンクール ピアノ部門 金賞
第42回・43回 tys山口県学生ピアノコンクール 金賞
・併せて毎日新聞社賞(第42回)
・山口県教育長賞(第43回)
その他多数
ショパン国際ピアノコンクールin ASIAを終えて

ーーコンクール、お疲れさまでした。コンクールを終えて今現在のお気持ちをお聞かせください。
平尾
僕はこれまで、全国規模の大きなコンクールに参加した経験がありませんでした。高校までは実家のある山口県に住んでいて、山口県音楽教育連盟や県内のテレビ局が主催するコンクールが年に2回ほど開かれるなど、県内だけでも十分に充実したコンクールがあったので、そちらを中心に出場していたんです。
そういう背景もあり、今回のショパンコンクールが僕にとって初めての全国規模のコンクールでした。予選からアジア大会まで数か月にわたって進み、しかも僕が参加した部門では毎回同じ曲を演奏する必要があり…常に最高の状態で弾けるようにピークを維持するのが本当に大変で、今はそのプレッシャーから解放され、ほっとした気持ちです。
ーー練習をするにあたって、どのようなことに気を付けましたか?
平尾
この曲で一番苦労したのは、何度も出てくる和音のスタッカートで上がったり下がったりする部分ですね。テクニック的にとても難しく、ここが弾けないと話にならないというのは自分でもわかっていました。
まずはいろいろな出版社の楽譜を見比べて、自分に合った指使いを探しました。良い指使いが見つかったら、それをひたすら練習する形です。
音楽的な部分では、コンクールとはいえやっぱりショパンの曲なので。自分の一番好きな作曲家ですし…。自分が考えるショパンの魅力は、内面というか、内向的な部分というか、心の中に秘めたものを直接的には出さずに、ちょっと隠しつつ表現するところなんです。
ーーレッスンはどのように受けていましたか?
平尾
今は東京の大学に通っていますが、ピアノの先生は地元にいらっしゃるので、高校生の頃のように頻繁には通えません。帰省した際に集中してレッスンを受ける感じですね。
今回の曲も、最初から最後まで細かく見てもらう時間はなかなか取れなかったのですが、たとえばアクセントやスフォルツァンドの箇所で「ここはこんなイメージじゃない?」といったアドバイスをもらいながら、曲の全体像をつかむ手助けをいただきました。
それから、どうしても部分部分の演奏に集中すると音楽の流れが止まってしまうので、全体の構成を先生に見てもらい、長い中間部の歌い方が自然に聞こえるようにといった指導も受けました。そうしたレッスンをもとに自分で試行錯誤し、また聴いてもらってフィードバックをもらう――というのを繰り返しています。帰省した時にまとめて見ていただく形ですね。

ーーコンクール準備期間にこころがけたことは何かありますか?
平尾
コンクール以外にも、大学のピアノサークルの演奏会などを通して一年を通じてさまざまな曲を弾いていました。そのため、このコンクールの曲に集中して取り組んだのは夏休みに入ってからです。
今回演奏したショパンのスケルツォ第4番は、中学3年生の時にクリスティアン・ツィメルマンさんの来日リサイタルで初めて聴き、非常に感動した曲なんです。スケルツォ全曲のプログラムだったのですが、とりわけ第4番が本当に美しくて、それ以来ずっと憧れていました。
高校時代から少しずつ楽譜を読んではいたものの、スケルツォの中でも難易度が高く、しかも第4番は内容も大人っぽい。なかなか高校生の自分には手に負えず、レッスンに持って行ってもなかなか褒めてもらえませんでした。
それでもずっと温めてきた曲だったので、「ショパン国際ピアノコンクール in ASIA に出るならぜひ挑戦したい!」と思い、夏休み前から少しずつ練習を再開したんです。
さらに僕の出身地である山口県宇部市には、小林愛実さんという憧れのピアニストがいらっしゃいます。小林さんがショパンコンクールで入賞して地元で凱旋リサイタルを開かれたときも、スケルツォ全曲がプログラムに含まれていて、そこで第4番を聴いてまた感動したんです。そういう経緯もあり、スケルツォには何か縁を感じています。
小林さんのピアノは本当に繊細で美しく、「ピアノってこんなにいろんな音色が出せるんだ」と教えてくれるような演奏です。僕もいつか、そんな風に人の心を動かせるピアニストになりたいとずっと思っています。もちろん小林さんのようにはいかないですけど(笑)、演奏会を聴きに来てくださる皆さんに「いいピアノだな」と思ってもらえるように頑張りたいです。
――今回、この曲を選んだのはやはり“好きな曲”だからですか?
平尾
はい、それも大きいです。部門や選曲はかなり悩みました。大学生部門とショパニストB部門のどちらにするか迷ったり、ショパニストB部門なら「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」なども大好きなので弾きたいな、と思っていたんです。
でもショパニストA部門は、4分から10分程度の曲を選ぶ必要があって。その中で、自分が本当に好きで、憧れてきた曲に挑戦したいと思いました。さらにコンクールという場を考えると、技術的にも音楽的にもやりがいがあり、聴いている人に感動を与えられるような見せ場のある曲がいいなと思って、スケルツォ第4番を選びました。
ーーなぜこのコンクールに挑戦しようと思われましたか?
平尾
大学に入ってピアノサークルに所属したのですが、そこですごく上手な友人がたくさんできました。その中に、部門は違いますが、昨年ショパン国際ピアノコンクール in ASIA に挑戦した人がいたんです。その友人からコンクールのことをいろいろ教えてもらって、「自分も出てみようかな」と思ったのがきっかけですね。
――ショパンがお好きなのでしょうか?
平尾
そうですね。ショパンは高校時代からとてもよく弾いてた作曲家の一人で、今も大好きな作曲家です。
――YouTubeにアップされている大学の演奏会も拝見しました。そこでもショパンを弾かれていましたよね。すごく素敵でした! なので、昔から大きな大会にたくさん参加されているのかと思っていましたが、今回が初挑戦で金賞を受賞されたのは本当にすごいですね。お友達にも「すごい!」って言われたんじゃないですか?
平尾
ありがとうございます。でも、僕の友達もみんな、色々なコンクールや部門にどんどん挑戦していて、いつも刺激をもらってるんです。だから、僕もこれからも頑張りたいなって、改めて思いました。
ーー本番を迎えた当日のお気持ちをお聞かせください。
平尾
予選も全国大会も、しっかり準備してきたつもりでも、いざ本番になるとどうしても焦ってしまうんですよね。特に曲の前半は落ち着かない演奏をしてしまい、「あちゃー」と思いました(笑)。予選は演奏時間のカットもあったので、短い時間の中で焦ってしまい、それが大きな反省点でした。
アジア大会のときは、弾く順番がトップバッターだったので、周りのことは気にせず「今日は自分が気持ちよく弾けばいいや」と、大学の演奏会に臨むような気持ちで挑みました。舞台袖で肩を回したりしながら、少しリラックスしてステージに出ました。
――会場の雰囲気はいかがでしたか?
平尾
初めてのホールでしたが、中がとても綺麗で響きも素晴らしかったんです。ピアノも最高のコンディションで、弾く前からワクワクが止まりませんでした。舞台袖からステージを見た瞬間、「今日は気持ちよく弾けそうだな」という感覚があって、ドキドキとワクワクでいっぱいでした。
ーーショパン国際ピアノコンクールinASIAに挑戦する方へのメッセージをお願いします。
平尾
ショパンは、コンクールだけでは語り尽くせないほど奥深い作曲家だと思います。もちろんショパン国際ピアノコンクール in ASIA は素晴らしい舞台ですが、コンクールという枠にとらわれすぎず、自分が思う理想のショパン像を追求することが大切なんじゃないでしょうか。
「ショパンならどう弾くだろう? どんな演奏を喜んでくれるだろう?」と自分なりに考え抜いて、そこから得た答えを音にする。それが一番いいのではないかと思います。もちろん、その答えを見つけるのはとても難しいんですけどね(笑)。
ーーー今後の目標などをお聞かせください。
平尾
具体的な進路はまだ決めていませんが、いずれはショパン国際ピアノコンクール in ASIA の別の部門やピティナなど、また何かに挑戦したいと考えています。ショパンは本当に好きな作曲家なので。
大学在学中はピアノサークルを続けるつもりです。ピアノは人生を豊かにしてくれるもので、年齢を重ねてからこそ弾きたい曲もたくさんあると思うので、一生続けたいですね。僕は6年制の学科にいるので、将来のことはもう少し時間をかけて考えます(笑)。
「東京大学ピアノの会」という大きなピアノサークルに入っているんですけど、年に2回の学園祭の他に、ホールを借りて演奏会も開いてるんですよ。それから、ハロウィンパーティーやスキー合宿みたいな楽しいイベントもあって充実した日々を送っています。

実は昨日(インタビュー前日)も演奏会があったんですよ!
昨日はたまたま平日だっただけで、土日続けてとかもありますし、大学祭だと金土日とか。結構頻繁に演奏会があるんです。
僕も、これからもできる限り演奏会に出たいなって思っています。
ピアノサークルには、僕よりもずっと上手な友達がたくさんいるんです。先輩もそうですし、インカレサークルなので、音大生の方もいたりして。本当に色んなレベルの人がいます。
ジャンルも様々で、ポップスを弾く人もいれば、クラシックを弾く人もいるし、自分で作曲する人もいるんです。だから、本当に色んな演奏が聴ける、面白い演奏会だと思います!ぜひ聴きにいらしてください!
――ちなみに、昨日の演奏会では何を弾かれたんですか?
平尾
昨日はシューベルトのソナタを演奏しました。
――そうなんですね。シューベルトとは少し意外でした。
平尾
ショパンももちろん大好きなんですが、僕の演奏スタイルは華やかでバリバリ弾くというより、どちらかというと繊細でキラキラした感じやコロコロっとした音色のほうが得意なんです。そういう意味で、大学に入ってからはシューベルトにハマっていて。
シューベルトの曲は、リストなどと比べると派手さは少ないですが、歌曲が有名なだけあって、ピアノ曲でもメロディーラインに歌心があり、繊細な美しさがありますよね。ピアニッシモが多いところも魅力で、僕の音色には合っているように感じて最近はシューベルトに積極的に取り組んでいます。
音楽への深い愛情と探求心、そしてショパンへの敬愛を柔らかな雰囲気の中で語ってくださった平尾さん。初めての全国規模のコンクールで金賞を受賞されたにもかかわらず、周囲への感謝や尊敬の念を忘れない謙虚で真摯なお人柄に大いに刺激を受けました。
小林愛実さんへの憧れを語るときに垣間見えた、音楽に対する純粋な情熱。素直で真っ直ぐな平尾さんなら、きっと小林さんのように心を揺さぶる音楽を奏でられるのではないか――そんな期待が膨らみます。
貴重なお話を伺うことができ、大変光栄でした。お忙しい中、ありがとうございました。今後のさらなるご活躍を心よりお祈り申し上げます。
第26回ショパン国際ピアノコンクールinASIAの概要については下記をご覧ください。
第26回ショパン国際ピアノコンクールinASIAの結果については下記をご覧ください。