【特別座談会レポート】プロオケとのコンチェルトを終えた7人の受賞者が語る「音の夢ピアノコンクール」とは

「音の夢ピアノコンクール」は、佐賀県鳥栖市を拠点とする九州発の舞台だ。各地の予選、鳥栖での全国大会を経て辿り着くのは、アクロス福岡での「“夢”コンサート」。プロのオーケストラと共演するこのステージは、一年を歩き切った子どもたちへ贈られる、特別な「ご褒美」と言える。

本コンクールでの挑戦は、単なる順位争いではない。自分自身との対話、審査員との出会い、そしてオーケストラとの共鳴──。その濃密な体験は、一人では気づけなかった音楽の本当の楽しさや奥深さへと、子どもたちを導いていく。

こうした時間は、時に誰かの人生に大きな影響を与えることもある。今回の第18回挑戦者のなかには、学業との両立に悩み、このステージを最後にピアノを辞めるつもりで最後の一年を歩んでいた挑戦者もいた。しかし、そんな彼女が最後に辿り着いたのは、思いもよらなかった「新しい自分」との出会いだった。

コンチェルト演奏を終えた7人の受賞者たちは、その2か月後の5月1日、オンラインで再び集まった。

本記事は、音楽に打ち込んできた彼らの、ありのままの想いを記録した座談会レポートとなっている。一つの舞台が、子どもたちの感性をいかにたがやし、その後の歩みをどう変えていくのか。音楽を愛し、次の一歩を模索するすべての人へ、彼らの等身大の言葉を届けたい。

音の夢ピアノコンクールインタビュー

取材・文:音楽コンクールガイド編集部

国内外の音楽コンクール情報を紹介する専門サイトを運営。「見やすい、探しやすい、わかりやすい」をコンセプトに、コンクールに関わる全ての方に、有益な情報をお届けすることを志している。


<取材協力者>


質問
①ピアノ歴 ②師事している先生 
③第18回の全国大会で演奏した自由曲
④受賞歴 ⑤好きな作曲家・楽曲 ⑥将来の夢・目標

平野 郁花

平野 郁花(ひらのふみか)
小学5・6年部門 第1位・グランプリ

約8年
牛島真喜子先生に師事
ブリッジ作曲『おとぎ話組曲』より、第1曲「王女」、第2曲「鬼」、第4曲「王子」
・第18回九州国際バッハ音楽コンクール Ⅳ部門 第1位
 ・第13回日本バッハコンクール 小3・4年 Cコース 全国大会:金賞/ベスト賞
 ・ピティナ・ピアノコンペティション(2023 B級)/(2025 C級)全国大会 ベスト賞
 ・カワイこどもピアノコンクール(九州大会)2024 ソロ Bコース 金賞
  他多数
ショパンのマズルカ、ポロネーズ
/ シューベルト / モーツァルト(今後はラヴェルやドビュッシーなどに挑戦したい!)
演奏会やコンサートのステージを沢山経験し、聴衆を惹きつける魅力あるピアニストに なりたいです。

井上 紗彩

井上 紗彩(いのうえさや)
自由曲コース中学生部門第1位・準グランプリ

約10年
これまでに下道悦子先生、竹下智子先生、現在池川礼子先生に師事
・ショパン〈エチュード Op.10-2〉
 ・バッハ〈半音階的幻想曲とフーガニ短調 BWV903〉
第14回日本バッハコンクール 高校Bコース 全国大会金賞
 ・日本クラシック音楽コンクール 中学校女子の部 全国大会第34回入選、35回第4位
 ・第2回煌めくながさき音楽コンクール ソロAコース 中学生部門 最優秀賞
 ・第19回ベーテン音楽コンクール 自由曲コース 中学生の部 全国大会第2位
  他多数
バッハ/ ベートーヴェン
聴いて下さる方の心に響く演奏ができるようになりたいです。

大舘 玄來(おおだてはるき)
自由曲コース小学5・6年部門第3位・審査員長賞・コンチェルト賞

約7年
増井以卓先生に師事
ラヴェル〈水の戯れ〉
・第25回 ショパン国際ピアノコンクールinAsia アジア大会 奨励賞
 ・第1回 プレアデス 国際音楽コンクール全国大会 金賞(ピアノ)
 ・2023年 カワイこどもピアノコンクール ソロ B コース 金賞
  他多数
モーツァルト
(ピアノソナタ第10番。モーツァルトらしく可愛らしいところが好きです。)
 ショパン
(エチュードOp.10‐1。ハーモニーの変化や響きが素晴らしいので大好きです。手の大きさが厳しいですが、弾けるように頑張ります!)
将来は、世界中の人々に感動を届けられるピアニストになりたいです。

藤井 創仁

藤井 創仁(ふじいそうと)
自由曲コース小学5・6年部門第2位・コンチェルト賞

約7年
野沢 優子先生・ソルフェージュ野沢 聡美先生に師事
メンデルスゾーン作曲〈ロンドカプリチオーソOp.14〉
・第37回九州山口ジュニアコンクール3.4年生自由曲部門グランプリ
 ・第25回大阪国際音楽コンクール(section Ⅰ)ピアノ部門age-E2 第2位
 ・第36回すみれ会音楽コンクール自由曲部門中級第1位 福岡県教育委員会賞
  他多数
チャイコフスキー交響曲第5番、ベートーヴェンの交響曲やピアノコンチェルト、パガニーニの24のカプリース、ショパンのソナタ、コンチェルト、他にもリスト、ハイドン…など
幸せを届けるピアニスト。

飯田 ひかり(いいだひかり)
課題曲コース小学5・6年部門第1位・課題曲大賞

約8年
寺岡由美子先生に師事
メトネル〈おとぎ話op51-2〉
・第8回ヤマハジュニアピアノコンクールA部門 グランドファイナル2位
 ・第10回ヤマハジュニアピアノコンクールB部門 グランドファイナル2位
 ・ヤマハJOCセレクション2025に自作曲が選ばれる
  他多数
モーツァルト、シャミナード
海外で勉強してみたいです。また聴きたいと思ってもらえる演奏家になりたいです。

山崎 愛佳

山﨑 愛佳(やまさきあいか)
課題曲コース中学生部門第1位・コンチェルト賞

約11年
吉田佳代先生を経て、現在は野沢優子先生に師事
ベートーヴェン〈ピアノ・ソナタ第6番 Op.10-2 第1楽章〉
・ピティナ・ピアノコンペティション(第43回A1級全国大会銅賞、第47回D級本選優秀賞)
 ・第25回ショパン国際ピアノコンクール in ASIA 小学5.6年生部門全国大会銅賞
 ・第34回日本クラシック音楽コンクール 中学校女子の部全国大会入選
 ・第23回ヴェルデ音楽コンクール 自由曲コース 中学生の部銅賞
  他多数
ショパン
(大好きな「舟歌」を弾けるようになりたいです)
音楽に関わる仕事に就きたいです。

梅田 夏緒

梅田 夏緒(うめだなつお)
課題曲コース中学生部門第1位・コンチェルト賞

約8年
袴田和泉先生に師事
・バッハ〈シンフォニア第6番〉
 ・シューベルト〈即興曲変ホ長調Op.90-2〉
・第53回熊日学生音楽コンクールピアノ部門低学年の部 優秀賞
 ・第6回ヤマハジュニアピアノコンクール セミファイナル九州エリアA部門奨励賞
 ・第39回JPTAピアノオーディション全国大会JⅡ部門 優秀賞並びに受賞者演奏会出演 / 第41回 全国大会A部門 優良賞
 ・第27回九州音楽コンクール自由曲コース小学5.6年の部 最優秀賞
  他多数
ラヴェル〈亡き王女のためのパヴァーヌ〉 / ホルスト〈組曲「惑星」より木星〉
ゲーム音楽を作曲する人になりたいです。

目次

弾いてみたい、と思ったあの日

音の夢ピアノコンクール
©音の夢ピアノコンクール

「弾いてみたい」「挑戦したい」と心が動いたあの日のことを、7人はそれぞれの記憶のなかから取り出してくれた。

ピアノの先生からの推薦で出場を決めたのが、夏緒さん、愛佳さん、玄來さんの3名。夏緒さんは「協奏曲の副賞があると聞いて、ぜひ参加したいと思いました」と振り返る。

愛佳さんは、半年ほど体調を崩していた時期があり、そこから立ち直っていく途中で先生とお母さんから音の夢ピアノコンクールを勧められたという。

玄來さんは、「こんなコンクールあるんだけど出てみない?」と師事している先生がチラシを見せて誘ってくれたのがきっかけだったそうだ。そのときの気持ちを力強く話してくれた。

「全国大会で、海老彰子先生や小川典子先生など、有名な先生に自分の演奏を審査していただけるのが嬉しくて、参加を決めました」

友達からの紹介で参加を決めたのが、創仁さん。また、ひかりさんは、学校で友人が表彰されているのを見て、参加を決意したそうだ。

紗彩さんは、自分でコンクールを調べ、師事している先生と相談して出場を決めたという。

みんなそれぞれの出会い方。共通しているのは、「弾いてみたい」「挑戦したい」と思えるほどの魅力を「音の夢ピアノコンクール」に感じ、ワクワクしたということだ。

練習と、家と、学校と

山﨑愛佳
愛佳さん練習風景(福岡女学院中学校)

挑戦を決めてから本番までの一年、ひたむきにがんばってきたことや、苦難をどう乗り越えたのかを聞いてみた。

創仁さんは、自分の手の小ささと向き合い続けてきた。

「僕は手が小さいので、オクターブの連打で掴んだ音が出なくて。訓練して、先生の助言をもとに直していきました」

技術的な壁を日々の鍛錬で乗り越えた経験は、本番への確かな自信へと繋がったに違いない。

また、郁花さんは組曲を演奏するため「3曲を通して集中して弾くこと」に心血を注ぎ、複数曲をひとつの物語としてまとめ上げる難しさを越えてきた。

当時中学1年生だった夏緒さんが奮闘したのは、鍵盤上のことだけではない。それは毎日の生活そのものだった。「とにかく学校とピアノの両立をがんばった」と振り返る夏緒さん。中学生にとって、学業や部活との両立は避けて通れない課題であり、目まぐるしく日々が過ぎ去っていく中で、モチベーションを維持したまま練習を続けることは相当に困難だった様子がうかがえる。

学業との両立でおもしろい工夫をしていたのが創仁さんだ。宿題の出し方について、なんと学校の先生に直接相談していたという。こうした自主性が育まれるのも、ピアノと真摯に向き合っているからこそだといえる。

リフレッシュ中の創仁さん

とはいえ、やっぱりピアノ以外の時間も大切だ。
他に打ち込んでいるもの、好きなもの、リフレッシュ方法について、7人に聞いてみた。

夏緒さんは中学に入ってから剣道を習い始めたという。

「ピアノを最後まで弾ききるための体力が、剣道で鍛えられています」

剣道の稽古にも真っ直ぐに打ち込み、挑戦の日々を送っている夏緒さん。二つの道を全力で歩む彼女の姿からは、どんなことからも学びを得ようとする、ひとりの人としての誠実な姿が伝わってきた。

梅田夏緒
剣道に打ち込む夏緒さん

一方、紗彩さんは、小学4年から続ける習字がリセットの場だ。

「良い気分転換になり、その後のピアノがはかどります」

習字で養われる深い集中力は、知らず知らずのうちにピアノに向かう姿勢を支えているのだろう。また、ペットの『はもる』ちゃん(モルモット)と触れ合う時間もまた、彼女には欠かせない大切な活力源となっている。

はもるちゃんと触れ合う紗彩さん

好きなものは人それぞれ。ひかりさんは、レジンでの小物作りに没頭し、創仁さんは日本史や三国志の世界に目を輝かせる。

ピアノが生活のすべてではない。むしろ、ピアノ以外の世界で得る刺激や安らぎが、豊かな演奏を支えているのだ。

「好きなこと」の話に花が咲き、画面越しに笑顔と笑い声があふれてきた。すっかり緊張が解けて温かな一体感に包まれたころ、話題は自然と自分たちを支えてくれる先生とのエピソードへ。

家族や先生との信頼関係の先にあるもの

音の夢ピアノコンクール
©音の夢ピアノコンクール|創仁さんと野沢優子先生

ピアノに、学校に、部活に……多忙な日々を支えるのは、ピアノの先生と家族の存在だ。

コンクール本番前、師事している先生からどんな声がけをもらってステージに立ったのか。座談会の和やかな会話の中で聞いてみた。

一番最初に答えてくれたのが創仁さんだった。

「『舞台では楽しく自分の表現を自由自在にしていいからね』と言ってもらいました」

嬉しそうに話すその様子からは、先生との間の確かな絆と信頼関係が強く感じられた。

一方、愛佳さんに対しては、本番前にはいつも、ある行動で送り出してくれるという。

「大丈夫、自信を持って楽しく弾いてくるのよって先生が背中にパンって気合いを入れてくれるんです!」

体調を崩していた期間を乗り越え、ベートーヴェンに挑むステージへ。先生の手のひらから伝わる優しさは、彼女にとって最高のエールとなったに違いない。

家族のサポートの形も、それぞれ違う。
郁花さんは「コンチェルトの演奏で、母が2台ピアノの第2ピアノを担当してくれたことがうれしかったです!」と元気いっぱいに話してくれた。

平野郁花
郁花さん練習風景

創仁さんは「お母さんが舞台裏での落ち着かせ方を教えてくれること」を挙げた。体を動かして緊張を和らげ、ステージに向かうことができたという。
玄來さんも、本番直前のお母さんとの会話で緊張をほぐしていると教えてくれた。

舞台上の「表現者」としての凛とした姿から一転、大好きな家族のことを嬉しそうに話すその姿には年相応のあどけなさがあった。この瞬間ばかりは、舞台上のソリストではなく、ごく普通の小学生・中学生らしい素顔がのぞき、そのギャップがなんとも微笑ましい。

家族や先生たちという絶対的な土台があるからこそ、ピアノに向き合うことができる。ステージ上では一人かもしれないが、その背中には常に、今日まで共に歩んできた人たちの温かな眼差しが注がれている。

本番のステージで音に込めたもの

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

舞台へ一歩踏み出したその瞬間、彼らは何を思い、どのような景色を見つめていたのだろうか。きっと緊張や不安で頭の中がいっぱいだったに違いない──そんなこちらの予想を、彼らは晴れやかな表情で次々と裏切ってくれた。

グランプリを受賞した郁花さんは、シンプルに「楽しむ」を選んだ。「いままで練習してきたことを楽しんで演奏しよう!」と心に決めてステージに立ったという。その清々しいまでに真っ直ぐな言葉は、聞いているこちらの胸を打った。

当時の郁花さんがどのような想いでステージに臨んだのか、そのより深い心境については、こちらの記事でも詳しく紹介されている。本記事とあわせて、ぜひチェックしていただきたい。

ひかりさんもまた、「ホール中いっぱいに音を響かせよう」という一心で本番のステージに臨んでいた。その言葉からは、押し寄せる不安や緊張に飲み込まれるのではなく、自らの音を「どう届けるか」という表現者としての前向きな意志が静かに伝わってくる。

紗彩さんは、ピアノを始めたばかりの頃の「弾ける喜び」に立ち返り、ホールで弾ける喜びを感じながら舞台に立ったと話してくれた。中学生になり、以前よりも緊張を強く感じるようになったと明かしてくれた紗彩さん。しかし、彼女はその向き合い方を変え、緊張を本番の高揚感へと変換し、壁を乗り越えていった。

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

玄來さんの視点は、また違ったところにあった。

「作曲家とつながっていこうと思って、ステージを歩いています」

その言葉を聞いた瞬間、小学6年生とは思えない凛とした後ろ姿が、ホールへ向かって歩き出す光景が目に浮かんだ。あまりに大人びたその視点に、座談会を見守っていた大人たちの間からも、感心の入り混じった深い溜め息がこぼれた。
楽譜の向こう側にいる偉大な先人たちへ思いを馳せ、大きな舞台で音楽の深みに触れようとするその歩みは、一人の自立した表現者のそれであった。

それでも、ステージ裏では誰もが等身大の子どもに戻る。
好きなアーティストの楽曲を聴いて心を整えるひかりさんや、大好きなチョコレートを食べて落ち着きを取り戻す郁花さん。夏緒さんは、家族からもらった大切なハンカチを丁寧に折り畳むことで、孤独なステージに家族の温もりを携えていった。

張り詰めた緊張を自分なりのやり方で受け入れ、一歩を踏み出すその瞬間。彼らにとってのステージは、もはや点数を競う場ではなく、大好きな音楽を全身で楽しみ、それを表現するための「自分の居場所」へと変わっていく。

審査員の忘れられない一言

©音の夢ピアノコンクール

ステージを終えた参加者の手元には、審査員からの採点表と講評が届く。彼らはそこに記された言葉を胸に納め、次なる練習への糧にしていた。

ひかりさんの心に深く刻まれたのは、音色を「カラー」と表現した審査員の言葉だった。

「『たくさんのカラーを出せるといい』と書かれていたことが、とても心に刺さりました」

その一言が、彼女の奏でる世界に新たな彩りを与えた。

愛佳さんにとっては、自らに課した挑戦が報われた瞬間だった。当時のことを嬉しそうに話してくれた。

「小さい頃から歌うことが大好きで、これまでショパンの曲をたくさん弾いてきたので、今回はあえてベートーヴェンに挑みました。講評に『ベートーヴェンらしさが出ていて、音楽的感性もすばらしい』と書かれてあり、自分の音楽が伝わったんだと嬉しくなりました。チャレンジして本当に良かったです」

勇気を持って踏み出した一歩を、審査員の一文が静かに、そして力強く受け止めていた。

音の夢ピアノコンクール
©音の夢ピアノコンクール

玄來さんは、率直な指摘さえも宝物にしている。

「『左手がやかましい』と指摘を受けたことがあり、それを次の練習に活かしています!」

審査員のユーモアあふれる独特な表現に、座談会にいた全員が思わず吹き出し、弾けるような笑い声に包まれた。

また、創仁さんは講評をきっかけに音楽の視野を広げた。

「『色々な時代の作曲家にチャレンジしてごらん』というアドバイスで、今はリストが大好きになりました」

郁花さんは、少し照れ笑いしながら話してくれた。

「『バッハがロマン派にならないように』という指摘がグサッときたけど、次に活かしていきたいと思っています!」

わかりやすく、真っ直ぐな言葉にハッとさせられながらも、それを正面から受け止めて成長の糧にできる「講評」。その核心に触れることができる、第18回大会審査員長・小川典子先生のインタビュー記事もあわせてご一読いただきたい。

一方、あの日の会場に流れていた空気を語る夏緒さんの言葉も印象深い。

「競い合う場ではありますが、相手を敵視するのではなく、一緒に音楽を楽しもうという温かさがありました」

出番を待つ間に隣り合わせた参加者と、演奏後に「来年もここで会えるといいね」と交わした言葉。このコンクールは、単に順位を競う場ではなく、同じ志を持つ仲間と再会し、高め合える場所となっている。

コンチェルトの舞台 ── アクロス福岡での“夢”コンサート

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

コンクールの全国大会を勝ち抜いた受賞者には、翌年3月、アクロス福岡シンフォニーホールで開かれる「“夢”コンサート」のステージが用意されている。座談会に集まった7人は、九州室内合奏団というプロのオーケストラをバックに、コンチェルトのソリストとして再びステージに立ったのである。

しかし、その夢の舞台へ至る道さえも、彼らにとっては学びの場となる。
ひかりさんは、最初のリハーサルで忘れられない経験をしたという。

「自分だけが先に走ってしまって、オーケストラの音と全く合わなかったんです。あんなに悔しい思いをしたのは初めてでした。でも、だからこそ、何にも代えがたい貴重な体験になりました」

数十人のプロ奏者が放つ音の圧力に圧倒され、思うようなリハーサルが行えなかったと話すひかりさん。しかし、その苦い経験を「初めての、味わったことのない悔しさ」と真っ直ぐに表現し、糧にしようとする姿には、一人の自立した表現者としての強さが宿っていた。

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

一方、紗彩さんは、ソロ演奏との違いを実感しながら話してくれた。

「オーケストラの方と一緒に音楽を作り上げて、その音の響きを聴きながら演奏することがとても楽しかったです」

本番を心から楽しんでいたのは郁花さんも同じだ。

「オーケストラと1つの音楽を作る楽しさと難しさを知ることができて、すごく楽しくてあっという間の時間でした」

愛佳さんは、幼い頃に一度コンチェルトを経験したことがあったが、今回は15分にも及ぶモーツァルトの大曲に挑んだ。会場に駆けつけた家族や友人からの「感動したよ」という言葉に、努力が報われる感触を得たという。

一方で、玄來さんは「大きなホールでオーケストラと響き合うには、もっと音を遠くへ届ける力が必要だ」と、次なる課題を静かに見据えていた。

創仁さんは、コンチェルトの舞台を経て「協力して一つの音楽を作ることの大切さ」を学んだと話してくれた。演奏後には「次のコンクールに向けてもっとがんばろう」という気持ちにさせてくれたという。

夏緒さんは、コンチェルトの経験がソロ演奏に深みを与えたと語る。

「一人で演奏する時も、このメロディならあの時聴いたトランペットの音色かな、とオーケストラの響きを想像して弾けるようになりました。自分が弾いている曲の中で、いろんなオーケストラの音色をイメージしながら想像して弾けるようになったことがすごく良かったし、これから活かしていきたいと思っています」

一人ひとりの音が重なり、一つの大きなうねりとなってホールを満たしていく高揚感。その「全員の音楽が一つになる」という奇跡のような体験こそが、本コンクールが子どもたちの未来に贈る、真のギフトなのだ。

オーケストラ

この感動的な変化を、ステージの上で誰よりも間近で見守り続けてきたのが、九州室内合奏団主宰の山下典道先生だ。
長きにわたり「音の夢ピアノコンクール」をオーケストラの立場から支え、子どもたちを時にはあたたかく、時には力強く導く山下先生。そんな先生から届いた、挑戦者たちへの愛あふれるメッセージを紹介したい。

一瞬の集中が生む、一生のたからもの。

リハーサルでの張り詰めた空気、プロ奏者たちの音圧に圧倒される戸惑い。そこから本番までのわずかな時間、子どもたちが見せる「集中力の凄まじさ」には、目を見張るものがあります。


自分の音だけでなく、周りの音を聴き、一つの音楽を共に編み上げていく。
その過程で味わう「悔しさ」も「高揚感」も、すべてが彼らを一回り大きく成長させます。


「もうやめよう」と思っていた心さえも動かしてしまうオーケストラとの共鳴。
あの日、アクロス福岡で放った一音一音は、技術を超えた「自立した表現者」としての確かな第一歩です。
この大きな経験は、これからの人生を支える一生のギフトになることでしょう。


山下典道
鹿児島県出身。九州交響楽団で33年間活躍。現在は「アルト・クレフ大濠」代表、九州室内合奏団主宰。アクロス弦楽合奏団ヴィオラ奏者。

7人がそれぞれ、持ち帰ったもの

音の夢ピアノコンクール
©音の夢ピアノコンクール

冒頭で触れた、ピアノをやめるつもりでこの一年を歩いていた挑戦者。それが、夏緒さんだった。

「最初は中学校生活との両立が本当に大変で、コンチェルトが終わったらピアノを一回やめようって考えた時期があったんです。本番直前まで、この日が最後の日くらいに思っていました。でも本番で弾いたら、本当に楽しくて。『やめるとか言ってられないな』というくらい貴重な経験ができました。これからも自分の好きなこととして続けていきたいです」

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

「やめる」という覚悟で臨んだはずのステージは、彼女にとって、自らの情熱を再確認する大きな転機となった。彼女は現在、第19回大会への4度目の挑戦を決めている。

創仁さんは、音楽そのものの捉え方が変わったという。

「音楽はソロばかりだと思っていたけれど、一緒に作り上げていくことの大切さがわかりました。次のコンクールに向けてもっと頑張ろうと思えるようになりました」

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

紗彩さんもまた、この一年を通して原点に立ち返った。

「技術面や表現面、その両方の音楽の楽しさを再確認できました。この気持ちを忘れずに今後も頑張りたいです」

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

愛佳さんが手にしたのは、ソロ演奏では得られない一体感だった。

「レッスンやリハーサルでは、つい自分だけで走ってしまうところ、逆に歌いすぎて遅れるということがあったけれど、オーケストラの方たちと合わせて全員の音楽が一つになる楽しさをこの“夢”コンサートで実感できて、本当に幸せな時間でした」

現在、愛佳さんは福岡女学院中学校で寮生活を送りながら、音楽に打ち込んでいる。

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

郁花さんが得たものは、確かな「自信」と「経験」だ。

「以前から憧れていたコンチェルトのソリストを務め、やり遂げられたことが自信になりました!」

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

憧れの場所に自らの足で立ち、最後まで弾き切ったという手応えは、これからの歩みを支える大きな支えとなったに違いない。

玄來さんは、コンクールとコンサートという性質の異なる二つの舞台を経験したことで、自らの成長を実感していた。

「いろんな演奏の機会があったので、多方面で成長につながりました」

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

そして、リハーサルがうまくいかなかったというひかりさんが持ち帰ったのは、「悔しさ」という名の財産である。「すごく貴重な体験だった」と振り返るひかりさんは、晴れやかな表情でこう付け加えた。

「また出たいです!」

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

音の夢ピアノコンクールでの貴重な体験を自分自身の力に変え、次なる舞台へと進んでいく彼ら。その一歩一歩がどのような音楽を紡ぎ出していくのか、7人の若き奏者達のこれからが楽しみでならない。

家族から見た「音の夢ピアノコンクール」

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

子どもたちの挑戦を一番近くで見守り、支え続けてきた保護者にとっても、この一年は忘れがたい記憶となる。

“夢”コンサートの客席に座った保護者たちは、祈るような心地でわが子のステージを見つめていた。あるお母さんは「息ができないほど緊張した」と語り、またあるお母さんは「当日は緊張して純粋に演奏を聴けなかったけど、後日いただいたDVDを見返して初めて、子どもたちが楽しそうに演奏する姿に気がつき、感動した」と振り返る。

この言葉に、座談会を見守っていたお母さんたちが共感の表情を浮かべながら深く頷いた。そんな、親子の絆が垣間見えた温かな空気のまま、話題はコンサート当日の舞台裏へと移っていった。

実は、当日は観客席で演奏を聴く予定ではなかったという。
コンクール時には、ステージ裏で足台のセッティングなどでバタバタするのだが、当日はスタッフさんの配慮とサポートにより、ホールでコンサート本番の演奏を聴くことができたのだ。

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

「純粋に音楽に感動しました。その空間にいられたことが、私自身の良い思い出としても深く心に残っています」

そう振り返るお母さんの言葉には、わが子の成長を見届けた安堵と、深い感謝が滲んでいた。家族もまた、舞台を支える立場をひと時離れ、純粋に音楽を楽しむ一人の聴衆として、その幸福な空間を共にしたのである。

会場では、共に支え合うお母さん同士の交流も自然と生まれていった。ライバルとしてではなく、互いの子どもの成長を一緒に見守り合う関係性は、一人で抱え込みがちなコンクールへの道のりを、とても豊かなものに変えてくれるはずだ。オンラインの画面越しに、久しぶりの再会を喜んで言葉を交わすお母さんたちの姿を見ていると、当日の会場を包んでいた一体感やあたたかな空気が、こちらまで真っ直ぐに伝わってきた。

そして、今回の座談会で繰り返し話題に上がったのが、音の夢ピアノコンクール代表の鈴木氏の存在だ。
子どもたちへの気さくな声掛けや、愛情のこもった差し入れ。本番後に子どもたちや母親と交わすハグ、そして時にはこれからの歩みへの助言。「お母さんたちにも勇気をくださる」「ここまで親切なコンクールはない」──そんな言葉がお母さんたちからあふれるのは、ここが単なる技術を競う場ではなく、関わるすべての家族に寄り添う「あたたかな場所」だからに他ならない。

音の夢ピアノコンクールは、あなたが羽ばたく瞬間を待っている

音の夢ピアノコンクール
夢コンサート
©音の夢ピアノコンクール

ここで、音の夢ピアノコンクール代表の鈴木氏から「夢コンサートへの招待状」となるメッセージを紹介したい。

挑戦するみなさんへ

ピアノコンクールを立ち上げたときから、ピアノ学習者の”夢”を追いかけてきました。
憧れの審査員の方々の審査。受賞コンサートでの素晴らしいステージで、憧れのコンチェルトを演奏する機会。

厳しい審査を通り、コンチェルト演奏資格を与えられた方々の1回目のリハーサル。
オーケストラの中で演奏が硬くなってしまったり、パニックで思うように弾けなかったり、今までの練習の甘さに悔し涙を流したりと、いろいろな思いが交差していました。

それでもリハーサルの回を重ねるごとに、潜在的に持っている才能が大きく開花し、本番ではサナギが蝶になるように、オーケストラと対話しながら、大きく羽を伸ばし、心を解放していきました。彼らの成長と演奏は、私たちに”夢”と”希望”を与えてくれました。

これから色んな事に挑戦し、成長していかれることでしょう。
今回の経験は大きな自信となり皆様を支えてくれることでしょう。

音の夢のステージから、高く飛び立ってください。
心から応援しています。

音の夢ピアノコンクール
鈴木 まさ子

次に「音の夢ピアノコンクール」のステージに立つのは、いまこの記事を読んでいるあなた自身かもしれない。

コンクールという究極の緊張感のなかで自分と向き合い、夢コンサートという舞台で自分以外の音と溶け合う。その一年間の軌跡は、順位という数字を超えて、あなたの音楽人生を支える一生の財産となるはずだ。

いよいよ第19回大会が幕を開ける。
ここは、子どもたちが主役であると同時に、親子が手を取り合って一緒に成長していける場所だ。わが子が大きく羽を広げて飛び立つ瞬間の輝きを、誰よりも近くで見守り、その喜びを分かち合う。そんな、かけがえのない一年をここから始めてみてはいかがだろうか。

【主要スケジュール】
予選申込①:2026年5月22日(金)〜6月4日(木)(北九州・佐世保・佐賀・熊本・福岡・長崎/動画審査)
予選申込②:2026年6月19日(金)〜7月2日(木)(福岡東・福岡南・鳥栖)
全国大会 自由曲コース:2026年10月10日(土)・11日(日)
ごほうびコンサート:2027年3月14日(日)
“夢”コンサート(グランドコンサート“未来へ”):2027年3月20日(土)
“夢”コンサート(コンチェルト演奏):2028年4月1日(土)

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