一般社団法人全日本吹奏楽連盟は6月13日、2026年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲4曲を発表した。
課題曲は毎年、朝日作曲賞の公募で選ばれた作品と連盟が委嘱した作品で構成されており、今回は第35回朝日作曲賞受賞・入選作品2曲と委嘱作品2曲が課題曲として決定。多彩な作品が選ばれ、全国の吹奏楽関係者から注目を集めている。
第35回朝日作曲賞「夕映えの丘」森山至貴氏の合唱・吹奏楽両分野での活躍
第35回朝日作曲賞に輝き、2026年度課題曲に選ばれたのは、社会学者でもある森山至貴氏の「夕映えの丘」。
朝日作曲賞は全日本吹奏楽コンクールの課題曲候補を公募するコンクールで、受賞作品は翌年度の課題曲として採用される。森山氏は1982年生まれ、現在早稲田大学文学学術院文化構想学部教授を務める異色の経歴を持つ作曲家だ。
森山氏はこれまで第22回朝日作曲賞(合唱部門)を受賞しており、第13・18・20回でも佳作を受賞するなど、合唱分野での実績が豊富。
今回の吹奏楽課題曲選出により、合唱と吹奏楽の両コンクールで課題曲に選ばれる快挙を成し遂げた。専門とするクィア・スタディーズの研究と音楽創作を両立させる姿勢は、現代の作曲家像に新たな一面を示している。
伊藤士恩氏「あつまれ おもちゃのマルチャ!」2年連続課題曲選出
注目すべきは、伊藤士恩氏の2年連続課題曲選出だ。昨年の2025年度課題曲Ⅲ「マーチ『メモリーズ・リフレイン』」で第34回朝日作曲賞入選を果たした伊藤氏が、今回は「あつまれ おもちゃのマルチャ!」で第35回朝日作曲賞入選を果たし、2年連続で課題曲に選ばれた。
愛知教育大学教職大学院に在籍する学生作曲家として話題となった伊藤氏は、愛知県刈谷市出身。親しみやすいタイトルからは、幅広い年齢層の演奏者に愛される作品への期待が高まる。2年連続での課題曲選出は近年稀な快挙で、若手作曲家の成長と可能性を示すものとして業界内で高く評価されている。
委嘱作品は実力派コンビ:伊藤康英氏と星出尚志氏の新作に注目
朝日作曲賞の2作品に加え、全日本吹奏楽連盟が委嘱した2作品も課題曲として発表された。伊藤康英氏の「管楽器のためのフィナーレ」と星出尚志氏の「ザ・ガーズ」が選ばれている。
伊藤康英氏(1960年生まれ)は東京藝術大学作曲科出身で、現在洗足学園音楽大学教授。交響詩「ぐるりよざ」をはじめとする吹奏楽の世界的レパートリーを数多く手がけ、日本管打・吹奏楽学会アカデミー賞を2度受賞している。
「管楽器のためのフィナーレ」というタイトルからは、管楽器の魅力を存分に引き出す技巧的な作品が予想される。
一方、星出尚志氏(1962年生まれ)は山口県出身の作曲家・編曲家。「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」シリーズで数多くの編曲を手がけ、ポップス系楽曲の吹奏楽編曲のエキスパートとして知られる。東京藝術大学出身で、現代的なサウンドと親しみやすさを兼ね備えた作品作りに定評がある。
楽譜・CD・DVDは2026年2月末販売予定、演奏解釈のポイント
全日本吹奏楽連盟によると、課題曲の順番等については未定で、楽譜・CD・DVDは2026年2月末の販売予定となっている。例年通りであれば、楽譜発売と同時期に参考演奏のYouTube配信や解説DVDも提供される見込みだ。
今回の4曲は、朝日作曲賞受賞作品から学生作曲家の話題作、そして実績豊富な委嘱作曲家による新作まで、幅広い特色を持つラインナップとなった。特に森山氏の学際的な背景や伊藤士恩氏の連続選出は、従来の課題曲選考に新たな視点をもたらすものとして注目される。
全国の吹奏楽指導者からは早くも「多様性に富んだ選択肢」「教育的価値の高い作品群」といった期待の声が上がっており、2026年度コンクールに向けた選曲戦略にも大きな影響を与えそうだ。