史上初!2年連続金賞受賞の幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部

通常スタイルは管弦楽部(オーケストラ)でありながら、吹奏楽編成を組んで毎年吹奏楽コンクールに出場している千葉県立幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部。通称「幕総(まくそう)」。全国大会では昨年に続いて金賞を受賞する快挙を成し遂げたが、先生や部員たちの実感は「意外なもの」だった……。


取材・文:オザワ部長

世界でただひとりの吹奏楽作家。神奈川県立横須賀高等学校を経て、早稲田大学第一文学部文芸専修卒。在学中は芥川賞作家・三田誠広に師事。 現役時代はサックスを担当。現在はソプラノサックス「ヤマ」(元SKE48の古畑奈和が命名)とアルトサックス「セル夫」を所有。好きな吹奏楽曲は《吹奏楽のためのインヴェンション第1番》(内藤淳一)。詳しくはこちら>>


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2年連続金賞に隠された意外な事実

「幕総」こと幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部は、全日本吹奏楽コンクールに昨年まで3回出場し、3回とも金賞を受賞している。だが、いままで連続で全国大会に出たことも、ましてや連続で金賞を受賞したこともない。

その幕総が、今年は昨年の金賞に続き、創部初の2年連続金賞を達成した。
だが、顧問・伊藤巧真先生やリーダーの茂木麻央さん(3年・ホルン)に話を聞くと、意外な事実が明らかになった。

その演奏は「コンクールらしくないコンクール」だった!?

幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部
©幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部

「今年の全国大会は不思議でした。特別な感覚になるのが全国大会だと思いますし、実際僕にとって初めての全国大会だった昨年はそうでした。でも、今年は違ったんです」

伊藤先生はそう語る。
確かに、昨年まで全国大会の会場は愛知県の名古屋国際会議場センチュリーホールで、「吹奏楽の聖地」と呼ばれていた。だが、今年はセンチュリーホールの改修の影響で栃木県の宇都宮市文化会館が会場に。

幕総を含む千葉県や栃木県、神奈川県、茨城県から成る東関東支部では、今年は支部大会も宇都宮市文化会館だった。これまでも大会で使用されてきたホールでもあり、幕総にとっては親交がある宇都宮の作新学院高校吹奏楽部とジョイントコンサートを行った場所でもあった。

「全国大会の景色が、あまりになじみのあるものだったのが影響していたかもしれません。今年の幕総は圧倒的に自然体だったと思います。そして、高等学校の部に出場した全30団体の中でもっともミスが多かったんじゃないかと思います」
伊藤先生はそう言うが、それは「悪い演奏だった」という意味ではない。

「言ってみれば普段どおりで、コンクールらしくないコンクールの演奏でした。実は、僕は不安だったんです。本番前、最後の最後までピリッとするスイッチを入れられませんでした。今年のメンバーは99.9パーセントまではすごく良くても、最後の0.1でフッと抜けてしまい、バラバラになっていく傾向がありました。幕総は僕が指揮をするようになってから5回続けて東関東大会金賞止まりだったので、ちょっとでも隙があると落ちていくような恐怖感があったんです。でも、もしかしたら、部員たちは僕よりもずっと先に行っていたのかもしれません」

指揮者よりもずっと先に——。それは何を意味するのだろう?

「手に負えない」ほどの成長

昨年、10年ぶりに全国大会出場を果たし、金賞に輝いたとき、伊藤先生は部員たちに「自分の翼で飛ぶ」こと、つまり、指揮者に率いられるのではなく、一人ひとりが自立して音楽を奏でることを目標としていた。そして、それが本番で実現されたことが金賞につながった。

それでは、今年はどうだったのだろうか。伊藤先生はこう語る。
「今年の部員は昨年の子たちより不器用でしたが、音楽的に高いレベルを持っていました。全国大会前日のホール練習でも、すでに自分の翼で飛びまくっていました。僕としては『君ら、すごいよ。手に負えないよ』という感じで。最後の通し練習を終え、『明日は素晴らしい演奏になるね』と言って、心から部員たちを尊敬する気持ちになりながら、一緒にホールで片付けをしました。いま思うと、昨年のようなピリッとしたコンクールというものがそこで終わってしまっていたのかもしれません。本番は、まるで毎年3月に開催しているスプリングコンサートのような雰囲気でした」

信じ抜く力

幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部
©幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部

幕総には「一音一会」というモットーがある。その言葉が大きく書かれた白い横断幕に、全国大会前にみんなで寄せ書きをするのが恒例となっている。
今年の全国大会前日、伊藤先生は横断幕にこう書いた。

『花が咲くと信じたものだけが希望の芽を育てることができる。信じたよ!ありがとう!』

幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部
©幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部

実は、この言葉は伊藤先生が今年の正月に宇都宮の二荒山神社で引いたおみくじに記されていた言葉だった。

どんなに枯れた土からもやり方一つで芽が出て花が咲く
今自分のできることを考えなさい
花が咲くと信じたものだけが希望の芽を育てることができるのです

幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部
©幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部

先生には今年の部員たちが「枯れた土」に見えたこともあったという。だが、必ず「花が咲く」と信じ、おみくじを心の支えにしてきていた。
その結果、今年は昨年とまったく違う全国大会になった。だが、確かに花は咲いたのだ。

ベストではない演奏だったはずが……

10月20日、全日本吹奏楽コンクール・高等学校前半の部、9番。
千葉県立幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部はステージで課題曲《メルヘン》(酒井格)、自由曲《「スペイン狂詩曲」より I.夜への前奏曲 II.祭り》(モーリス・ラヴェル)の2曲を演奏した。

「正直言うと、全国大会での演奏はベストではありませんでした。きっと55人のコンクールメンバーみんなが思っていることだと思います」
3年生の茂木さんはそう語る。

幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部
左:茂木麻央さん・右:原花音さん(3年、フルート)©オザワ部長

幕総では2年生が部活の幹部を務める。茂木さんも2年生で部長になり、現在は後輩にバトンタッチをしているが、コンクールメンバーのリーダー的存在であることに変わりはない。
「ベストではなかった」と茂木さんが言うのは、伊藤先生と同じ理由からだった。

「前日の練習では、演奏をああしようこうしようと相談しながら、普段とは違う独特な雰囲気で時間が過ぎました。『明日はどうなるのかな』と私も楽しみでしたが、いい状態でその日を過ごして……それで終わってしまったという感じです。みんなの中で何かが切れてしまったんだと思います」

全国大会の本番の演奏では、伊藤先生も感じていたように、ミスが多かったことを茂木さんも自覚していた。
「もともとできていた演奏や表現が、一人ひとりのミスでできなくなっていました」
では、そんなにミスが多く、気持ちの面で乗り切れない演奏で金賞という高い評価が得られたのはなぜだろうか?

茂木さんはこう考えている。
「本番のミスは、音楽的表現をするためのミスだったと思います。きっと私たちが求めているものが去年より高くなっていたので、自分たちの基準ではベストじゃない演奏と感じられたんだと思います。壁を乗り越えて自分たちが目指していた目標に到達するにはまだまだ足りないものがありました。ただ、金賞をいただけたのは、音楽そのものを評価していただけたからかなと思います」
ジョイントコンサートをしてから交流を続けていた作新学院高校の部員たちが会場係として大会を手伝っていたことは、幕総の部員たちの心の支えになっていたという。

幕総のつくり上げた音楽

幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部
©幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部

幕総は、今年のコンクールに挑む上で「去年をまぐれとは言わせない」という目標も持っていた。それは見事に達成できた。
伊藤先生は言う。
「今回わかったのは、当たり前のことですけど、吹奏楽コンクールはれっきとした音楽のコンクールなんだということです。タテ(音の出だしやリズム)やヨコ(音程やハーモニー)、音色、サウンドだけではなく、どう音楽を表現しているか。どう音を扱っているか。そこを審査員はちゃんと聴いてくださっていると感じました。やっぱりまぐれじゃなかった、幕総が進んできた道が間違っていなかったとようやく確信できました」

昨年、10年ぶりに全国大会に返り咲き、金賞に輝いた。その過程、つくり上げた音楽が正しかったことを、今年の幕総が自ら証明したのだ。

無意識のうちにより高い基準を自らに課し、そこには到達することができなかったかもしれない。ミスも多かった。けれど、グレードアップした音楽は観客や審査員を魅了した。
花は咲いたのだ。

全国大会出場校で唯一のオーケストラ部でありながら、2年連続で最高章を受賞した幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部。その花はやがて実となり、次の世代の幕総へ——いや、それだけでなく、吹奏楽界全体へ蒔かれる種となるだろう。

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