聖ウルスラ学院英智高等学校・吹奏楽全国大会出場~喜びと悔しさの先へ~

夏に始まった吹奏楽コンクールは秋にクライマックスを迎える。

厳しい予選を通過した高校30校が集まり、10月20日に全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部が開催されたのだ。

今年で3年連続、通算8回目の出場となった聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部の顧問・及川博暁先生と、ホルン奏者として出場した松下悠さん(2年)に「吹奏楽の甲子園」を振り返ってもらった。


取材・文:オザワ部長

世界でただひとりの吹奏楽作家。神奈川県立横須賀高等学校を経て、早稲田大学第一文学部文芸専修卒。在学中は芥川賞作家・三田誠広に師事。 現役時代はサックスを担当。現在はソプラノサックス「ヤマ」(元SKE48の古畑奈和が命名)とアルトサックス「セル夫」を所有。好きな吹奏楽曲は《吹奏楽のためのインヴェンション第1番》(内藤淳一)。詳しくはこちら>>


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常連校が集う前半の部でのウルスラの挑戦

聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部
©聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部

全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部は前後半15校ずつに分かれ、それぞれ審査・表彰式も別に行われる。

ウルスラが出場したのは前半の部の15番目、トリだった。

ここ数年は安定して全国大会出場を重ねてきているウルスラだが、初出場は2011年と比較的最近だ(といっても13年前だが)。一方、同じ前半の部には精華女子高校(福岡)、愛知工業大学名電高校、岡山学芸館高校など何度も全国大会で金賞に輝いている常連校が集まっていた。

次々と各校の熱い演奏が披露されていき、その最後にブルーのジャケットとレジメンタルタイというステージ衣装を身に着けたウルスラの部員たちが緊張の面持ちでステージに登場した。

及川先生の大胆な挑戦

聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部
©聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部

実は、ウルスラは大会直前になって、それまで練習してきたことを変更していた。

及川先生はこう語る。
「東北大会までは代表になって上位大会に進出するという目標がありますが、全国大会となるといかにバンドの個性を音楽で表現するかということが大事になります。『もっとこうしたほうがいいんじゃないか』と考え、全国大会では“攻める”演奏をする決心をしました。リスクがあることもわかっていましたが、直前でいろいろな部分を変えたんです」

55人のコンクールメンバーも、先生の思いに応えようとギリギリまで練習を重ねた。

だが、そんなウルスラの前に立ちはだかったのは、会場となったホールだった。

ウルスラを襲った緊張と戸惑い

聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部
©聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部

昨年まで全国大会は愛知県の名古屋国際会議場センチュリーホールで開催されていた。ところが、今年はセンチュリーホールが改修工事を控えていることもあり、栃木県の宇都宮市文化会館でおこなわれることになったのだ。

松下さんは本番の演奏が始まったときの戸惑いをこう振り返った。
「私自身、全国大会に出るのが初めてでした。学校名と演奏曲がアナウンスされて照明が明るくなったとき、ほぼ満員の客席から見つめられているのを感じて、すごく緊張しました。宇都宮市文化会館で演奏するのも初めてで、どういう響きのホールなのかがわかりませんでしたし、最初の課題曲《メルヘン》(酒井格)は出だしから感覚をつかみきれず、そのまま終わってしまいました」

全国大会は課題曲と自由曲を合計12分以内に演奏することになっている。ウルスラのメンバーは自由曲《交響的変容》(三善晃)の演奏中に少しずつ本来の調子を取り戻していった。しかし、自分たちの持てる力を出し切ることはできなかった。

「不完全燃焼の本番でした。みんな、心残りがあったと思います」(松下さん)

悔しさ滲む銅賞

その後、ステージ上で表彰式が行われた。全国大会では全団体に金・銀・銅いずれかの賞が贈られる。
1校ずつ結果が発表され、伊奈学園総合高校、精華女子高校、千葉県立幕張総合高校、大阪桐蔭高校、岡山学芸館高校、八王子学園八王子高校(東京)、春日部共栄高校(埼玉)が金賞に輝いた。

一方、ウルスラは銅賞だった。

松下さんは言う。
「もしかしたら銅賞かも……とうすうす感じていましたが、現実になってしまって、本当に悔しかったです」

誰よりも悔しい思いを抱えていたのは及川先生だった。
「今年の3年生は歴代でも数が少ない36人。しかも、中2のときにコロナ禍の影響で部活があまりできなかった子たちなので、入部してきたときは演奏技術はかなり厳しい状態でした。それでも練習や本番を重ねていくうちに少しずつ上達していきました。たくさん笑って、たくさん泣いて、演奏面でも精神面でも頼れる最上級生に成長し、僕を全国大会に連れてきてくれました。だからこそ、良い結果で終わらせてあげたかった……」

来年は金賞へ!新たな挑戦が始まる

聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部
©聖ウルスラ学院英智高校吹奏楽部

表彰式の後、ウルスラのコンクールメンバーは落ち込み気味だった。それを救ってくれたのは宇都宮の名物だった。

松下さんがこんなエピソードを教えてくれた。
「大会が終わった後で宇都宮の餃子をみんなで食べにいったんです。そのお店の店員さんがめっちゃ明るくて。しかも、餃子もおいしいし、みんなの沈んでいた心が一気に晴れました。いい思い出です」

その後、ウルスラは地元の仙台に戻って練習を続け、11月には大阪城ホールで開催された全日本マーチングコンテストに出場。銀賞を受賞した。

及川先生は来年を見据えてこう語る。
「コンクールの全国大会では一昨年も去年も銅賞でしたが、悔しくありませんでした。でも、今年で3年連続銅賞になって、とても悔しくなったんです。一昨年まで僕たちが得意とする現代音楽の課題曲Vがありましたが、昨年からVがなくなりました。今年は課題曲IIIを選んだものの、審査ではあまり良い評価がいただけなかった。僕の力不足です。しかし、いまは解決策が見つかったと思っています。今後、また部員たちと次の全国大会を目指して頑張っていきます」

来年は3年生になって後輩たちを引っ張っていく立場になる松下さんも、最後に力強く語ってくれた。
「ウルスラはまだ金賞をとったことがないんですけど、来年こそは金賞をとります!絶対に、絶対に!」

この記事を書いた人

世界でただひとりの吹奏楽作家。
神奈川県立横須賀高等学校を経て、早稲田大学第一文学部文芸専修卒。在学中は芥川賞作家・三田誠広に師事。

現役時代はサックスを担当。現在はソプラノサックス「ヤマ和(やまお)」(元SKE48の古畑奈和が命名)とアルトサックス「セル夫」を所有。
好きな吹奏楽曲は《吹奏楽のためのインヴェンション第1番》(内藤淳一)。

初の小説『空とラッパと小倉トースト』(Gakken)をはじめ、多くの書籍を上梓。中でも、『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』(ポプラ社)は2023年7月に舞台化された。

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