2025年5月9日(日)にパルテノン多摩小ホールで行われた「第11回日本クラリネットコンクール」において第二位(※第一位該当者なし)を受賞された河合さん。
今回は同コンクールや音楽コンクールに挑戦される方へ向け、お話を伺いました。
取材・文|編集部
自分にピッタリな音楽コンクールが見つかる!国内外の音楽コンクール情報や結果まとめをわかりやすくご紹介し、次世代の音楽家や音楽ファンの皆様に寄り添います。
プロフィール
北海道出身。
北海道旭川商業高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部器楽科卒業。
幼少期から音楽に親しみ、NHK「クインテット」のフラットさんに憧れ、9歳よりクラリネットを始める。小学校ではスクールバンドでクラリネットを担当し、その喜びが現在の原点となっている。中学・高校でも吹奏楽に打ち込み、高校は旭川商業高校を選択。音大進学は当初想定していなかったが、顧問の勧めで東京藝術大学を志し、シエナ・ウインド・オーケストラの黒岩真美氏の指導を受ける。藝大では三界秀実氏、サトー・ミチヨ氏に師事し、充実した日々を送った。
2024年度青山音楽財団奨学生、瀬木芸術財団短期海外研修奨学生。
同年よりパリ地方音楽院に在学。
これまでにクラリネットを黒岩真美、三界秀実、サトーミチヨ、Florent Héau、Paul Meyerの各氏に師事。
室内楽を木川博史、齋藤雄介、三又瑛子の各氏に師事。
趣味・特技
お米と梅が大好物で、おにぎり屋さん巡りが趣味
最近訪れた中では「おにぎり屋こんが」が一番のお気に入り。
これからも、様々なおにぎり屋さんを巡る予定。
受賞歴・演奏活動歴
東京藝術大学音楽学部器楽科在学中に安宅賞を受賞。
同卒業時に同声会賞を受賞。
第一回全日本学生国際ソロコンクール 全部門を通じグランプリ受賞。
第4回Kクラリネットコンクール 2位(最高位)
第8回K木管楽器コンクール クラリネット部門 1位
第11回日本クラリネットコンクール 第二位(最高位)
テレビ朝日「題名のない音楽会」に藝大同期で組んだ、ブリーズバンドsaigo ensemble★7として出演
2023年度「小澤征爾音楽塾オペラプロジェクトXIX」、「セイジ・オザワ松本フェスティバル:子どものためのオペラ」に合格
東京藝術大学モーニングコンサートにて、山下一史氏、藝大フィルハーモニー管弦楽団とモーツァルトのクラリネット協奏曲を共演
東京藝術大学同声会新人演奏会に出演
日本クラリネットコンクールを終えて
ーーコンクール、お疲れさまでした。コンクールを終えて今現在のお気持ちをお聞かせください。
河合
あまり実感は湧いていませんが、沢山の経験と学びを与えてくださった今回のコンクールにとても感謝しております。
本選まで進んだのは今回が初めての経験で、本番に向けた気持ちの整え方やコンディションの調整、集中力の維持など、まだまだ課題が多いと感じました。それでも、すべての本番を乗り越えられた自分に対して、少しは自信を持ってもいいのかもしれないと思えました。
見えない大きな壁に挑む不安は常にありましたが、乗り越えた末にいただけた今回の結果を、今は素直に嬉しい気持ちでいっぱいです。
ーー練習をするにあたって、どのようなことに気を付けましたか?
河合
苦手な部分は、譜面を「歌える」ようになるまで重点的に取り組みました。
歌えなければ、演奏することはできないからです。
演奏の際は、まずとにかく“ゆっくり”から取り組み、頭の中でも譜面を歌うことを意識しています。
それでもうまくいかない場合は、運指の関係で指が転んでしまったり、絡まってしまいがちです。
そういった時には難しいフレーズの中にあるどこかの音が私の場合は必ず鳴っていないか、必要な音価分まで音が出し切れていないことが多いので、まずはどこに躓いているのかをしっかり自分で見つける、そのためにブレスやアタック、音色、全てに耳を使って集中しながら見つけました。
うまくいかない時ほど難しい指ばかりが意識を先導してしまい、大切な基礎の部分が疎かになりがちです。
だからこそ、苦手で難しい箇所ほど、運指以外の要素に意識的に耳を向ける――この過程が、私にとって何よりも大切であり、本番の緊張を味方につけるための「お守り」のような練習法です。
原因を突き止めたあとは、本番を想定して通して練習をしてみます。
どれだけ意識的に練習して部分的にできたとしても、通すとなるとまた話は変わり、体力的に疲労が溜まってきますので、そういった時にどういったミスを自分は起こしやすいのかを把握しておく必要があると思います。
集中力を持続させてありとあらゆる方向に神経を張ることは容易ではありませんが、練習中に意識付けしておくだけで本番での緊張感がとても良いものになると私は感じております。
それでも、本番では想定外のことが起きるものです。
1次予選から本選まで、普段ではしないようなミスもあり、自分の集中力の未熟さを痛感する瞬間も何度もありました。
それでも、この練習をしていなければ、もっと大きな後悔をしていたと思います。だからこそ、まだまだ改善できることはたくさんあり、もっと上手くなりたいと強く思わせてくれます。
やはり、本番に勝る経験はないと、あらためて感じています。
ーーコンクール準備期間にこころがけたことは何かありますか?
河合
コンクール準備期間中はオン、オフの切り替えをしっかりとすることを心がけました。
練習中はもちろん集中して取り組みますが、そのぶん疲労も大きいため、それ以外の時間はしっかりと休息をとることを大切にしていました。
美味しいご飯を食べること、湯船にしっかり浸かること、十分な睡眠時間を確保することなど、生活の基本ではありますが、自分のペースに合わせて心身を整える時間を意識的に確保する、ということをとても大切にしていました。
一人暮らしということもあり、他人のペースに左右されることなく、自分自身のリズムで生活できたのも大きな助けになったと感じています。
また、家族と電話で近況を報告し合う時間も、心の支えとなる大切な時間でした。
ーーなぜこのコンクールに挑戦しようと思われましたか?
河合
大きな目標が欲しかったからです。
実は昨年9月からフランスへ留学していましたが、さまざまな事務手続きの中で認識の食い違いがあり、予定よりもずっと早く帰国せざるを得なくなってしまいました。
そのため、昨年出場を考えていたコンクールも、留学準備を理由に見送る決断をしました。
「もし留学を1年遅らせていたら…」と、あり得ない未来を想像しては落ち込む日々が続きました。想定外の出来事が重なり、満身創痍の状態で帰国。
何を目指せばいいのか、何に向かって努力すればいいのか分からなくなり、しばらくの間は気力すら湧かなくなっていました。
ですが、このままでは自分にとって何一つプラスにならないと感じ、少しずつ気持ちを立て直しました。
そんな中で今回のコンクール出場を決め、最高位を目指して努力をする、ということを決意しました。
もちろん、私の場合は結果を強く求めすぎると苦しくなることも分かっていました。
それでも、自分にとっての確かな“自信”となるような結果が欲しい――その一心でした。
無我夢中に追いかけられる目標が、このコンクールでした。
ーー本番を迎えた当日のお気持ちをお聞かせください。
河合
緊張はしていましたが、あまり意識しすぎないよう心がけていました。
朝ごはんをしっかり食べ、温かい飲み物でホッと一息ついてから、ゆっくりと音出しを始めました。本番のイメージももちろん持っていましたが、考えすぎると余計に緊張してしまうため、移動中はあまり音楽を聴かないようにしていました。
没入してしまうと、「ここは気をつけないと」「この箇所はミスしやすいな」といった不安が次々と浮かんできてしまうからです。音出しをしながら、演奏する自分の姿を一通りイメージしたあとは、なるべく深く考えすぎないようにしていました。
その一方で、本番の演奏にはとにかく集中して臨みました。
演奏の始まりに、自分に会場の意識が集まる“空気のタイミング”を逃さないよう注意し、最初の一音・一フレーズには全神経を研ぎ澄ませました。
その空気をしっかりと作ってから始めることで、会場全体の雰囲気も自分の集中に呼応していき、良い緊張感と静寂が重なった、とても良い状態で演奏できたと感じています。
演奏中は、常に「普段通り」を意識していました。
普段以上のことは本番ではできません。だからこそ、日々の向き合い方が大切になるのだと思います。それでも、どれほど努力していても、本番で自分の力をすべて出し切ることは簡単ではありません。
「本番の演奏こそが、自分の実力そのものだ」と、毎回痛感します。
今回のコンクールでも、当日の精神状態やコンディションの中で出せた力こそ、今の自分の実力だと改めて受け止めました。悔しい部分は、書ききれないほどたくさんあります。
それでも、その課題をひとつずつ乗り越えていけるよう、日々努力を続けていこうと奮起しています。この繰り返しの中にこそ、成長の実感があり、そしてそれがとても幸せなことなのだと感じています。
ーー日本クラリネットコンクールに挑戦する方へのメッセージをお願いします。
河合
自分自身が信じることを貫く――それがどれほど大切かを、今回のコンクールで実感しました。
さまざまな情報があふれる中で悩み、迷いながらも選び取った答えを、自分で信じ抜くこと。
たとえ心が揺らぎそうになっても、ぶれない軸を持つことが何より大切だと感じました。
その確固たる想いこそが、その人自身の内面からにじみ出る音楽をつくるのだと思います。
私もこれから、さまざまな壁に直面していくと思います。
ですがそのたびに、今回のコンクールで得た経験を思い出し、ひとつひとつ乗り越えていきたいと強く思っています。
ーーー今後の目標などをお聞かせください。
河合
自分自身に正直に、音楽に実直に向き合う人間でありたいと強く思っています。
音楽は、人とのつながりの中でこそ成り立つものです。
ご縁を大切にし、応援してくださる方々、支えてくださる方々、そして私と関わってくださるすべての方々、常にそばにいてくれるクラリネットと音楽に感謝の気持ちを忘れず誠実であり続けたいと思っています。
将来は、オーケストラ団体に所属することが1番大きな目標ですが、同時に、私を育ててくれた北海道で演奏活動を続け、音楽を志す学生たちへの指導にも取り組んでいきたいと考えています。
さまざまな方々への感謝を胸に、「またこの人の演奏を聴きたい」と思っていただけるような、愛されるクラリネット奏者になることが、私の人生最大の目標であり、何よりの大きな夢です。
河合さんの、音楽に対するひたむきさと誠実な姿勢がひしひしと伝わってきました。困難に直面しながらも自ら目標を立て、練習に真摯に向き合う姿勢、そして本番を通して得た気づきを丁寧に言葉にされている様子に、深く心を動かされました。
技術だけでなく、音楽を通じた人とのつながりや感謝の気持ちを大切にされているところにも、奏者としての豊かさを感じます。ご自身の音を信じ、丁寧に歩まれている姿がとても印象的で、河合さんならきっと目標を叶え、音楽を志す学生たちの素晴らしい道しるべとなられることと思います。
今後ますますのご活躍を心よりお祈り申し上げます。これからも応援しております。
●6月21日(土) 北海道深川市 Trio Concert
pf 真保 響 fl 石郷岡 こまち cl 河合莉奈
●7月19日(土) 広島県 Quintet Colore 広島公演
fl 久田 萌 ob 古川 瑞記 hr 原 叶夢 fg 古賀 朝也 cl 河合 莉奈
●7/27(日) 北海道留萌市 Quintet Colore 北海道公演
出演者 上記と同じ
●8月18日(月) 新宿ドルチェ楽器 アーティストサロンDolce バトン・パスコンサート
cl 河合 莉奈 pf 小澤 佳永
●8月28日(木) 北海道滝川市 初秋コンサート
cl 河合 莉奈 pf 青野 有里
第11回日本クラリネットコンクール2025の概要については下記をご覧ください。
第11回日本クラリネットコンクール2025の結果については下記をご覧ください。