管打楽器の熱量を記録し続けてきた吹奏楽作家・オザワ部長。大編成の響きの中でも埋もれない、奏者一人の「声」に常に注視してきた彼は、第6回ASIS全日本学生国際ソロコンクールのステージに何を見たのでしょうか。 そこにあったのは、技術の査定を超え楽器を通じて奏者の内面を探求する作家ならではの温かな眼差し。「上手さの先に、自分だけの響きがある」──個の表現がぶつかり合う現場で受け取った、表現の本質についてお話しいただきました。
取材・文|編集部
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プロフィール
主な著書
『とびたて!みんなのドラゴン 難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険』(2025年度 第71回青少年読書感想文全国コンクール課題図書)
『空とラッパと小倉トースト』(長野県・徳島県などの高校入試問題に採用)
『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』(2023年舞台化 / 演出:深作健太)
『旭川商業高校吹奏楽部のキセキ』(フジテレビなどで特集)
『吹部ノート 12分間の青春』(吹奏楽ノンフィクションの人気シリーズ)
『いちゅんどー!西原高校マーチングバンド』(沖縄から世界一を目指す琉球青春小説)
ほか
主なメディア出演
フジテレビ「この世界は1ダフル」
NHK Eテレ「沼にハマってきいてみた」
J-WAVE「JUST A LITTLE LOVIN’」
TBSラジオ「たまむすび」ほか
連載
朝日新聞/朝日新聞デジタル 「My 吹部 Seasons」
クラシック情報メディア「ぶらあぼ」 「ぶらあぼブラス!」
シンクロナス 「吹部ノート」
第6回ASIS全日本学生国際ソロコンクールを終えて
──第6回ASIS全日本学生国際ソロコンクール、管打楽器部門全体を振り返っての率直なご感想を教えてください。
オザワ部長
ASIS全日本学生国際ソロコンクールは今回で6回目となりましたが、過去の大会と比較すると中学生の応募が大幅に増えました。多くが吹奏楽部の部員たちだと思われますが、いわば「オフシーズン」であるこの時期にどんな練習をするかが、実は春以降のベースになります。その点でソロコンクールを選んでくれたのはとても嬉しく、また、意義のあることだと思います。そして、中学生たちのレベルが非常に高かったのにも驚かされました。
高校生はさらに技術力が高く、一般大学の学生や音大生は成熟した演奏を披露してくれました。素晴らしい大会になったと思っています。審査員一同、レベルの高さに感嘆していました。
──ソロ演奏において、特に重視して耳を傾けたポイント(技術・音色・音楽性など)はどこにありましたか?
オザワ部長
ASIS全日本学生国際ソロコンクールは、審査員の先生方の顔ぶれが非常に多彩です。審査委員長を指揮者のゲオルク・マルク先生が務め、審査員は木管楽器2名、金管楽器2名、打楽器1名に加えて私がいます。一般的なコンクールで作家が審査員を務めることはあまりなく、本大会の非常にユニークな点だと思います。
音楽には、プロにしかわからない技術的な面も確かにあります。しかし、それ以上に大切なのは、プロではない一般の聴衆を感動させることです。文芸でも音楽でも、表現を通じて人の心をつかみ、感動を届ける「芸術」であることに変わりはありません。ですから私は、作家としての視点から、芸術性や表現力の面を重視して耳を傾けていました。
もちろん、これまで日本中の学校や楽団、プロの演奏を間近で聴いてきた経験を活かし、トータルとして総合的に判断するようにもしています。素晴らしい音楽家がそうであるように、奏者の持つ音楽的な空気感や、ステージでの佇まいが感じられるかどうかも大切に見ていました。
──満場一致でグランプリとなった大國朔也さんの演奏は、他の奏者と何が違ったのでしょうか?審査員席で感じた「凄み」のようなものがあれば教えてください。
オザワ部長
まず、音が美しい。どこまでも澄み切っていて、同時にふくよかさもある。審査をしているということを忘れ、一聴衆として音楽を純粋に楽しむことができました。…これは、多くの審査員が心の中で望んでいることだと思います。
さらに、大國さんの中には彼独自の世界観がしっかりとあり、それを楽器と一体になりながら十全に表現しているのが強く感じられました。
──「上手い」を超えて、聴き手の心に届く管打楽器の演奏とはどのようなものだと思われますか?
オザワ部長
技術を高めることは、演奏の基本ですが、技術は何のためにあるのか。それは、自分の中にある際限のない音楽性や感情、ストーリー、魂などを載せるための器であり、車であり、風であると私は思っています。技術にとどまらず、音の中にその人ならではのものが宿ったとき、それは理屈抜きに胸を打つ素晴らしい演奏になるのではないでしょうか。
──本番で力を出し切るために、また「管打楽器奏者」として成長するために、日々どのような意識を持って練習に励んでほしいですか?
オザワ部長
まず、自分自身の理想とする音楽を自分の内側に持つことだと思います。最初はプロの演奏を理想とするのが良いでしょう。ソロプレイヤーでも、オーケストラや吹奏楽団でもかまいません。「こんな音を奏でたい」というものを自分の中に持ち、そこに近づいていこうとすること。その過程で、きっと自分ならではの音というものが徐々に見えてくるのではないでしょうか。
我々作家も同じです。当初は多くの本を読み、語彙や表現の引き出しを増やします。尊敬する作家の文体を真似るのも常道で、私は川端康成の『雪国』を書き写して学びました。やがて、ごく自然と自分の文体というものができあがってきました。
──オザワ部長ご自身の経験から見て、若いうちにソロでコンクールに挑戦することは、その後の音楽人生にどのような影響を与えるとお考えですか?
オザワ部長
中高生のプレイヤーの多くは吹奏楽部に所属していると思います。大人数の合奏では、うまく吹けない箇所を吹かずに済ませたり、音を小さくしてやり過ごしたりすることも、時にはできてしまうでしょう。指揮者や周りの仲間に引っ張ってもらうことも可能です。
しかし、ソロでは誰も助けてくれません。たった一人でステージに立ち、決意を固め、緊張やプレッシャーと戦いながら最初の一音を響かせる。そんな「孤独な戦い」を経験することは、結果の成否にかかわらず、きっと大きな自信や学びになるはずです。それは大会本番だけでなく、自分と向き合い続けた練習の過程も同様です。ここで得た手応えは、音楽のみならず、その後の人生にも必ず良い影響を与えてくれると思います。
──審査員として講評を書く際、特に「若い奏者」へ言葉を届けるときに心がけていることはありますか?
オザワ部長
基本的に、ポジティブなことを書くようにしています。単に褒めるということではなく、もしかしたら本人も気づいていないかもしれない良さを見つけるよう心がけています。私の講評によって、「自分の演奏にはこんな面があったのか、こんな印象を与えるものだったのか」「これからももっと頑張っていこう」と思ってもらえるように書いています。
──ASIS全日本学生国際ソロコンクールならではの魅力や、他の大会にはない特徴はどこにあると感じられますか?
オザワ部長
これには、審査員の先生方の多様な視点も大きく関係しています。審査委員長はクラシック音楽の本場であるヨーロッパの指揮者が務めており、審査員は比較的若い世代の奏者が多く、また、私のように作家も入っている。つまり、ほかのソロコンテストとは少し違う観点や評価軸を持った大会だと言えます。
これはほかの審査員たちとも話していることですが、このASIS全日本学生国際ソロコンクールを次へのステップアップの場にしてほしい、ここでたくさんのことを学んで成長していってほしいと思っています。だから、我々も精いっぱい講評を書いています。
ASIS全日本学生国際ソロコンクールで高い評価を受けた後、大きく羽ばたき活躍している奏者もいます。とても嬉しいことです。
──音楽を志す方々、そしてこれからASIS全日本学生国際ソロコンクールを目指す方々へメッセージをお願いします。
オザワ部長
管打楽器が奏でる音楽は国境を超え、言語をも超えて、世界中の人々の心に響くものです。だからこそ、音楽を学ぶということは、単に技術を高めるだけでなく、奏者の人間性そのものが問われます。あなたという人間すべてが、あなたの音楽になります。そして、あなたの中でどれだけ豊かな芸術が醸成されているのかがとても大切になります。
たくさん音楽を聴くことはもちろん、本を読み、絵画や彫塑に触れ、自然と対話し、あなたならではの芸術を育てていってください。
インタビューを終えて──編集後記
今回のインタビューを通じて、管打楽器の魅力とは奏者が紡ぎ出す「表現の本質」そのものであるという原点に改めて立ち返った思いです。
音楽とは単なる技術の披露ではなく、奏者の人間性がじっくりと醸成された一つの「芸術」なのだということ。オザワ部長が名作を書き写して自らの言葉を磨き上げたというお話は、理想の響きを追い求める奏者たちの歩みと重なり、表現のジャンルを超えた大切な何かに触れたような心地がしました。
特に、グランプリの大國朔也さんの演奏を語る眼差しには一人の表現者への深いリスペクトが溢れていました。”技術”という器にどれだけ豊かな魂を載せられるか。その過酷で幸福な道を歩むすべての奏者たちへ、オザワ部長の「あなたという人間すべてが、あなたの音楽になる」という言葉が届くことを願ってやみません。オザワ部長、お忙しいところ貴重なお話をありがとうございました。
第6回ASIS全日本学生国際ソロコンクール 管打楽器部門の概要については下記をご覧ください
第6回ASIS全日本学生国際ソロコンクール 管打楽器部門の結果については下記をご覧ください





