第9回仙台国際音楽コンクール【ピアノ部門】第1位 エリザヴェータ・ウクラインスカヤさんにインタビュー!

ELIZAVETA UKRAINSKAIAさまアイキャッチ

2025年6月14日(土)~28日(土)に日立システムズホール仙台で行われた「第9回仙台国際音楽コンクール【ピアノ部門】」において第1位を受賞されたエリザヴェータ・ウクラインスカヤさん。

今回は同コンクールや音楽コンクールに挑戦される方へ向け、お話を伺いました。


取材・文|編集部

自分にピッタリな音楽コンクールが見つかる!国内外の音楽コンクール情報や結果まとめをわかりやすくご紹介し、次世代の音楽家や音楽ファンの皆様に寄り添います。


プロフィール

エリザヴェータ・ウクラインスカヤ(ELIZAVETA UKRAINSKAIA)
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ドイツ・フランクフルト近郊生まれ。
ロシア・サンクトペテルブルク在住。

国立サンクトペテルブルク音楽院を卒業後、同音楽院にて教鞭をとる。

これまでに、ヴェラ・オフチャロワ、リュボフ・ルドヴァ、アレクサンドル・サンドラー各氏に師事。

幼少期に教会の合唱団で歌ったことをきっかけに、「ドレミファソラシ」などの音の読み方を学ぶ必要があると言われ、音楽学校に通い始める。

ヴェラ・オフチャロワ先生、リュボフ・ルドヴァ先生、アレクサンドル・サンドラー先生といった優れた指導者との出会いに恵まれ、現在も深い感謝の気持ちを抱いている。

趣味・特技

多趣味で好奇心旺盛な性格。
石鹸やキャンドル作り、水彩画、編み物のほか、陶芸・吹きガラス・モザイクアートのワークショップにもよく参加している。読書も大好きで、自宅には“本物の図書室”があるほど。

また、演劇にも興味があり、演技クラスに通った経験も。現在はフランス語の学習とジャズダンスに挑戦するのが近々の目標としている。

音楽面では、ピアノのほかにギター、オルガン、チェンバロも演奏。将来的にはヴァイオリンやクラリネットにも挑戦し、指揮にもチャレンジしてみたいと思っている。

受賞歴・演奏活動歴

ステージに立つことが好きで、これまでロシア、アメリカ、日本をはじめ、世界各地で演奏を重ねてきた。
ピアノへの深い愛情に導かれ、ドイツやイギリスなどの国際コンクールで数々の受賞歴を持つ。
なかでも、第9回仙台国際音楽コンクールでの優勝は特に印象深い経験だったと語っている。

仙台国際音楽コンクールを終えて

エリザヴェータ・ウクラインスカヤさま
ⓒ仙台国際音楽コンクール事務局

ーーコンクール、お疲れさまでした。コンクールを終えて今現在のお気持ちをお聞かせください。


エリザヴェータ・ウクラインスカヤ
このようなご質問をありがとうございます!
日本で過ごした時間を思い出すだけで、幸せな気持ちになります。時には、それがすべて夢だったのではないかと思えるほどです。

優勝者が発表されたとき、そしてその翌日には、本当にさまざまな感情が押し寄せました。
喜びや幸福感はもちろんのこと、長時間にわたって集中し続けたことによる少しの疲労感、さらにはプレッシャーや責任も感じました。

なぜなら、私は今や名誉あるコンクールの優勝者だからです。
この結果は、「もっと上達しなければならない」という新たな使命感をもたらしてくれました。

幸せな瞬間を思い出すとしたら、セミファイナル前の、オーケストラとの初めてのリハーサルが即座に思い浮かびます。オーケストラが演奏した最初の音から、私たちは同じ音楽言語を話していて、この人たちこそ私がステージで本当に 「話したい 」人たちなのだとわかりました。

幸せな楽しい瞬間をまだ覚えています、たとえば到着した初日のラーメン、ジブリストアと文具店へ行ったこと!そして言うまでもなく私の同志であり第2位のアレクサンドル・クリチコに心から感謝しています。彼と歩き、食べ、そして、ずっとお互いを支え合っていました!

ーー練習をするにあたって、どのようなことに気を付けましたか?

エリザヴェータ・ウクラインスカヤ
私にとって効果的だった練習のルールはとてもシンプルで、「スマホはしまう」「疲れたら休む」ということです。ここにたどり着くまでには、長い時間がかかりました。

私はこれまで、1日12時間練習したり、逆にまったく練習しなかったり、楽器も譜面もなしで練習したり…さまざまな方法を試してきました。その結果、「完璧な練習法は存在しない」という結論に至りました。まずは、自分自身をよく知ることが何より大切です。

当然、技術的に難しい部分は別々に練習しています。とりわけ公演の1、2日前にその部分を練習するのは好きです。これは、ステージ上のアクシデントに対する私の保険です。

音楽的な面では「耳で遊ぶ」ようにしています。たとえば例えばチャイコフスキーの協奏曲の第1楽章のゆっくりとしたテーマを何度か弾いてみて、新しい発見がないかを探します。1つのフレーズには多くの要素がありますが、どこを目立たせるか、どこを影に回すかを常に考えながら組み立てていきます。

その日の気分や天気によっても音楽は変わります。昨日は火曜日で今日は水曜日、昨日は今日よりもっと不安定で雨だったけど、今日はもう霧がかかっている!それが舞台での音楽に自然な変化をもたらすのです。この「即興性」こそ、私が一番愛するものですが、それは日々の探求によって生まれます。

これとは別に、私がいかにリハーサルを愛しているかを伝えたいです。「リハーサルは恋人」という有名な言葉があり、私には長い間理解できませんでした。でもこれはコンサートそのものに勝るとも劣らない本当に特別な喜びなのです。

ーーコンクール準備期間にこころがけたことは何かありますか?

エリザヴェータ・ウクラインスカヤ
このコンクールの準備は、私にとって特別なものでした。本番の約10日前からピアノを弾くのをやめ、散歩や映画、美味しい食事を楽しんで心身を休めていました。

ルールに反するかもしれませんが、私は「内なる幸せを蓄える」ことが必要だったのです。

予選の初日に演奏だったため、緊張する暇もなく気持ち良くステージに立てました。セミファイナル進出が決まってからは、モーツァルトのカデンツァを書いたり、編集したりして過ごしました。私は「先のことを考えすぎず、1ラウンドずつ生きる」のが好きです。

最近、重要なルールに気が付きました。”新鮮な気持ちでステージに立つ必要がある”ということです。日々の練習に疲れ果ててはいけない。もっと歩くこと、そして楽器のある部屋に一日中座っているよりも2時間だけ集中して練習するのが良いです。

可能なら、夜のコンサート前に少し仮眠をとるのも本当に好きです。コンクール中はこれが役立ちます。それに私は、コンクールの気持ちからちょっと観光的な気持ちに素早く切り替えて日本のローカルフードや文化を心から楽しみました。

もちろん、私を応援してくれる私の家族、友人と先生方は大きな喜びであり支えです。私にとって重要なのは、称賛よりも、オンラインで私の話を聞いてくれた、困難なときも幸せな瞬間も一緒にいてくれて、私の話を聞いてくれた事実そのものです。

ここ日本でも予想外の支援も受けました!各ラウンド後、仙台の聴衆のみなさんが手紙を書いてくださり、ボランティアを通して渡してくれました!彼らは何回も書いてくれました!全部大事にとってあります。ですので疲れて悲しい時、「私の演奏で誰かを幸せにできるのならば、頑張って幸せにしなければ!」と考えるようになりました。

ーーなぜこのコンクールに挑戦しようと思われましたか?

エリザヴェータ・ウクラインスカヤさま
ⓒ仙台国際音楽コンクール事務局

エリザヴェータ・ウクラインスカヤ
主な理由は日本そのものです。絵画(北斎、広重)、黒沢映画、もちろん宮崎駿の名作など、日本文化も大好きです!最初の数日間、仙台のコンサートホールに近い地下鉄駅から地上に出て、公園の木々を見ると、宮崎駿の世界の中にいるようだといつも感じました!魔法のようでした。日を追うごとにこの国が好きになりました。ラーメンや刺身など、思いがげなかったものが今でも恋しいです…。

もうひとつの理由は、オーケストラと3回共演することのできるこのコンクールの課題曲です。オーケストラと演奏し、ステージ上で指揮者やオーケストラメンバーと交流することが本当に大好きです。そしてオーケストラの間奏!オーケストラの演奏を客席からではなく、同じステージでピアノの前に座って聴くのは、ただただ素晴らしい!みなさんにもこの感覚を味わってほしいです。

コンクールにおいて私が掲げた目標は、「自分が幸せに演奏し、その幸せを聴いてくださる方と分かち合うこと」でした。そして、それは実際にできたと感じています。

今では「私の日本への愛は、きっと両想いになった」と思っています!

ーー本番を迎えた当日のお気持ちをお聞かせください。

エリザヴェータ・ウクラインスカヤ
ラウンドごとに違っていました。ほとんどは少しだけワクワクして、本当にステージへ行きたかったです。もちろん、ステージに立つ前は、ほぼ常にワクワクしています、というか、ワクワクするのが好きなんです!

演奏前によく自分に問いかけているのは、「もし今コンサートが中止になって演奏できなくなったら、動揺する?もし私が動揺せず、このコンサートでピアノを弾かない覚悟ができているなら、緊張する理由はない!リラックスするだけ。もし自問自答して「はい」なら、動揺することになる、それはつまり本当に演奏したいという気持ちの表れで、どんな緊張も私を止めることはない」ということです。

私が覚えている最高の幸せは、セミファイナルのゲネプロのあと本番前にすこし仮眠をとりにホテルへ戻ろうとしていた時でした。自分に上記の自問自答さえしませんでした!「したいの、本当に今日演奏したい!」と独り言をいうだけでした。

一方で、ファイナルのモーツァルト協奏曲はまったく違いました。本番の前日はずっと調子が悪く、何が自分を幸せにしてくれるか、演奏する意欲をかき立てるものはなにかを見つけようとしていました。それは人であり、ほんの一筋の太陽の光でした。私は一日中すべてを注意深く集めて、ステージ上ですべてを捧げ、そして楽屋に戻ってから、極度の疲労で1時間ほど床にただ横になっていました。

ガラコンサートの演奏は非常にワクワクしました、それはミスするわけにはいかない、私はいまや優勝者だからです!それでも音楽への集中はいつも過度の責任から救ってくれます。ステージに立つ前は、高揚感から不安感まで、あらゆる感情が湧き上がってきますが、ステージ上では、音楽に必要なものだけを受け止める必要があります。

ステージ上では演じず、耳を傾け、空気の流れに身を委ねます、鳥のように。鳥が羽の動きを止めてホバリングする様子を見たことがあるかもしれません。そして、私が学んだもう一つの大切なことは、演奏中に良い意味でも悪い意味でも、自分自身を決して評価しないことです。

もちろん、周りの人たちも演奏の状態に大きく影響します。私は演奏の前後に音楽家がたくさん必要とするケアをしてくださったボランティアの方々には特に感謝したいです!

そして演奏の雰囲気は素晴らしい仙台フィルハーモニー管弦楽団と指揮者の高関健さんによって創られたことを述べなければなりません!彼らは私たちをまるで旧友のように支えてくれました。彼らと演奏したどの音楽家も同じだったことは確かです!

ーー仙台国際音楽コンクールに挑戦する方へのメッセージをお願いします。

10 Elizaveta UKRAINSKAIA , Final Round of the 9th SIMC
仙台国際音楽コンクール ピアノ部門ファイナル3日目

エリザヴェータ・ウクラインスカヤ
親愛なる音楽仲間の皆さん、そしてピアニストの皆さん。まずは、ぜひ仙台国際音楽コンクールに参加してみてください!
全体としても細部においても、本当に素晴らしく運営されている大会です。どんなに期待していても、きっとその想像を超える体験になると思います。

次に、自分自身であること!自分の信じるとおりの演奏をすること。次のラウンドに進むために、あるいは審査委員長を喜ばせるために演奏しないこと。世界中の誰もあなたが演奏するように演奏できません、そして今日、世界がすでにラフマニノフの協奏曲の何百万もの解釈を知っている時代、この協奏曲の何百万もの才能ある録音を一瞬で見つけることができる時代です。価値のあるものはただひとつ、誠実さだけです。

ステージでの誠実さは、あなたの大きな強みと挑戦です。自分を信じること。あなたの本当の能力がわかっているのは、あなただけです。たくさん取り組むこと、たくさん散歩すること、たくさん読書すること。あなたがしていることを愛すること。思いが溢れていてごめんなさい、ですがこうした思いが、私が登り詰めたこの素晴らしい頂点に導きました。

ーーー今後の目標などをお聞かせください。

エリザヴェータ・ウクラインスカヤ
音楽に関する大きな夢はただ一つ。演奏して舞台に立つこと!ラフマニノフの5つの協奏曲を2晩で全曲演奏し、一連のコンサートでベートーヴェンのソナタを全曲演奏することを夢見ています。カーネギーホールやサントリーホールなど、演奏したいホールがいくつかあります。世界中の国々で演奏するのが本当に夢です!

それと、ソロと室内楽を教えているので、多くの都市でマスタークラスを開きたいです。このプロセスは本当に楽しいです!音楽家たちに多くのことを与えられると感じています!そして、モデスト・ムソルグスキーに関する本を完成させるのが夢です!私はエネルギーに満ちあふれていて、あらゆる音楽的な方法でそれを分かち合いたいと心から思っています!

……それから、ちょっと変わった夢もあります。宇宙に行ってみたい!

エリザヴェータ・ウクラインスカヤさま
ⓒ仙台国際音楽コンクール事務局

音楽への深い愛情と人とのつながりを大切にするあたたかな姿勢、そして時折のぞくチャーミングな一面がとても印象的なエリザヴェータ・ウクラインスカヤさん。

「日本での時間は夢のようだった」と振り返るエピソードの一つひとつに、感受性の豊かさと心の柔らかさがにじみ出ていて、こちらまで穏やかな気持ちにさせてくれました。

練習や本番への向き合い方についても、「即興性を楽しむ」「完璧な方法はない」といった言葉から、自分自身と丁寧に対話しながら音楽に向き合う、彼女の自然体の強さを感じました。中でも印象的だったのは、演奏中は「耳を澄ませて風にのるように音楽とともにいる」と語っていたこと。コントロールしようとせず、音に身をゆだねる彼女の姿勢に、音楽家としての美しさを感じました。

今回のインタビューを快くお引き受けいただき、本当にありがとうございました。そのしなやかな感性と、音楽を心から楽しむ姿を、これからもずっと応援しています。
今後ますますのご活躍を、心よりお祈り申し上げます。

エリザヴェータ・ウクラインスカヤinformation

2025年12月12日 イベント出演(仙台)
    12月17日 デビューコンサート(東京)

12月17日の東京でのデビュー・コンサートと12月12日(予定)の仙台でのイベントに皆さんをお招きできることをとても嬉しく思っています。
優勝して初めての日本でのコンサートになるので、特に思い入れがあります!
(また、優勝記念のCDの発売も決まっています。2025年12月初旬にライヴCD、2026年春頃にセッションCDを発売します。)エリザヴェータ・ウクラインスカヤ

第9回仙台国際音楽コンクールの概要については下記をご覧ください。

第9回仙台国際音楽コンクールの結果については下記をご覧ください。