現代音楽の国際コンクール「2025年度武満徹作曲賞」の本選が5月25日に行われ、日本人作曲家の我妻英と金田望がともに第1位を受賞した。これは同賞の歴史において、日本人2名が同時に最高位を分かち合う初の快挙である。
独創性光る二作品、審査員ハースも称賛
本選演奏会では、指揮者阿部加奈子のタクトのもと、東京フィルハーモニー交響楽団がファイナリスト4人の作品を初演した。審査員を務めた作曲家ゲオルク・フリードリヒ・ハースがその場で結果を発表。「全員を同等に称えたいほど水準が高かった」と総評し、特に優れた2作品を第1位に選んだ。
我妻英の「管弦楽のための《祀》」は、多彩な音素材と人の声を巧みに織り交ぜた力強い作品だ。これに対しハースは「非常にパワフルで、人間の声を交えている点が素晴らしい」と高く評価。一方、金田望の「2群のオーケストラのための 肌と布の遊び」は、2組の管弦楽による重層的な完全五度音型の反復という独創的な手法を用いた。この作品は「音楽に新しい技術と世界を切り拓いた」とハースから称賛された。
若き才能、我妻英と金田望の横顔
我妻英(1999年生まれ)は山形市の出身で、東京音楽大学大学院を修了している。2023年にはIPDA第23回国際ピアノデュオコンクール作曲部門で大賞(第1位)を受賞するなど、若手ながら既に確かな実績を重ねる。
金田望(1992年生まれ)は新潟市に生まれ、国立音楽大学大学院博士課程を修了、武満徹の音楽研究で博士号を取得した経歴を持つ。2019年JFC作曲コンクール入選、2020年松村賞受賞といった受賞歴があり、現在は大学講師として後進の指導にもあたっている。
世界への登竜門「武満徹作曲賞」
「武満徹作曲賞」は、作曲家・武満徹の芸術理念を継承し、1997年に創設された国際オーケストラ作品コンクールである。東京オペラシティ文化財団が主催し、毎年一人の著名な作曲家が単独で審査を務める点が大きな特徴だ。
この賞は、新進作曲家にオーケストラ作品の創作機会を提供し、世界の音楽文化の発展に寄与することを目的とする。2025年度は世界33カ国から137作品の応募があり、譜面審査を経て選ばれた4作品が本選で演奏された。
日本作曲界に新たな光、歴史的受賞の意義
近年では、2021年に根岸宏輔、2022年に室元拓人がそれぞれ第1位に輝いている。今回の我妻と金田の同時第1位受賞は、同賞の歴史上初めて日本人2名が最高位を分け合った快挙となった。このダブル受賞は、日本の作曲界にとって大きな励みとなり、国内の音楽教育や創作環境の充実ぶりを示す出来事としても注目される。
受賞の喜びと未来への抱負
受賞を受け、両者はそれぞれ喜びと抱負を語った。我妻は「この光栄な舞台に立つことができ、一生の記憶に残る貴重な経験を得た」と述べ、作品を見事に演奏した指揮者やオーケストラへの感謝の意を表した。
金田は「武満徹作曲賞は私にとって特別な意味を持つ。現代音楽の道を志すきっかけが武満徹の音楽だった」と語り、自身の音楽人生が武満の導きによるものだと振り返る。
今後、受賞者の新作発表や国際的な活動の機会も一層広がることが期待される。本選演奏会の模様は、NHK-FMのラジオ番組「現代の音楽」で7月20日および27日に全国放送される予定で、多くの音楽ファンや教育関係者が彼らの作品に触れる機会となるだろう。
大学で教鞭を執る金田は次世代の指導にも一層力を注ぎ、我妻も音楽祭やワークショップで研鑽を積みながら、更なる創作活動に取り組んでいく見込みだ。