暑い季節の訪れとともに、全国的に吹奏楽コンクールのシーズンも到来する。7月から各地で地区予選大会が開幕。大編成部門の参加団体が目指すのは、10月に宇都宮市文化会館でおこなわれる全日本吹奏楽コンクールだ。
そこで、千葉県と静岡県の強豪高校に、気になる今年の課題曲と自由曲を聞いた。
・柏市立柏高等学校吹奏楽部(千葉)
・浜松聖星高等学校吹奏楽部(静岡)
取材・文:オザワ部長
世界でただひとりの吹奏楽作家。神奈川県立横須賀高等学校を経て、早稲田大学第一文学部文芸専修卒。在学中は芥川賞作家・三田誠広に師事。 現役時代はサックスを担当。現在はソプラノサックス「ヤマ」(元SKE48の古畑奈和が命名)とアルトサックス「セル夫」を所有。好きな吹奏楽曲は《吹奏楽のためのインヴェンション第1番》(内藤淳一)。詳しくはこちら>>
イチカシの自由曲は樽屋雅徳作品
通称「吹奏楽の甲子園」とも呼ばれている全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部(全国大会)には、全国11支部を勝ち抜いた代表30校だけが出場できる。日本中の吹奏楽部員たちが憧れる夢の舞台だ。
千葉県・神奈川県・栃木県・茨城県で構成される東関東支部からは3校が出場できる。昨年代表に選ばれた「イチカシ」こと柏市立柏高校吹奏楽部(千葉県柏市)は、全国大会に通算34回出場する名門。昨年は課題曲《行進曲「勇気の旗を掲げて」》(渡口公康)、自由曲《交響詩「鯨と海」》(阿部勇一)で全国大会に出場し、銀賞を受賞した。
今年のイチカシはどういう状況なのか、顧問の緑川裕先生に聞いた。
「去年はまだコロナの影響が残っていて4、5月にほとんど予定が入っていなかったんですけど、今年はだいぶ元どおりになり、毎週のように予定が入ってかなり忙しかったですね。千葉県では予選が8月1、2日におこなわれますが、うちは昨年全国大会に出ているので予選はシードされ、8月9日の県大会本選からの出場になります」
イチカシが今年選んだのは、課題曲III《マーチ「メモリーズ・リフレイン」》(伊藤士恩)、注目の自由曲は《月下に浮かぶひとすじの道標~3.11 超克の祈り~》(樽屋雅徳)だ。
「課題曲は、やはりマーチが好きで、石田修一先生が顧問だった時代からイチカシはマーチが定番でした。もちろん、マーチングにも取り組んでいるということもあります。自由曲のほうは、僕が初めてイチカシを振った年の《とこしえの声 〜いまここに立つ母の姿〜》と同じ樽屋雅徳さんの曲を選びました。《とこしえの声》は非常にストーリー性があって、うちの生徒たちにマッチしていたので、同じようにストーリー性が強い《月下に浮かぶひとすじの道標》がいいかなと。もちろん、僕自身もそういう曲のほうが気持ちが入りやすいというのもあります」
昨年の全国大会は銀賞ながらも、「生徒も僕もやりきった感があり、気持ちよく演奏できた」と語る緑川先生。今年も全国大会出場を目指すが、その前に熾烈な東関東大会を突破しなければならない。
「練習時間が短くなったので、うまくやりくりして無駄のない活動をしながら、東関東大会まで練習を積み上げ、本番でいつもどおりの演奏ができるようにしていきたいです」
浜松聖星は全国大会でもっとも演奏されているあの曲!
一方、浜松聖星高校吹奏楽部(静岡県浜松市)が所属するのは東海支部。静岡県、愛知県、長野県、三重県、岐阜県の5県で構成されている。代表は3校だ。
浜松聖星は、女子校だった(現在は共学)浜松海の星高校時代から通算して全日本吹奏楽コンクールに11回出場。まだ金賞はなく、直近では6大会連続で銀賞となっている。
今年こそ悲願の全国大会金賞を目指す浜松聖星の顧問、土屋先生に部活の現状を聞いてみた。
「今年は1年生が42人も入ってくれて、全部員で87人になりました。55人のコンクールメンバーはおおよそ決まりましたが、もちろん、1年生も入っています」
気になるコンクール曲だが、課題曲はイチカシと同じ《マーチ「メモリーズ・リフレイン」》。そして、自由曲は高い目標を見据えたチャレンジングな選曲となった。
「昨年、初めて宇都宮市文化会館で全国大会が開かれ、そこで演奏してみた感じから自由曲を選びました。《交響詩「ローマの祭り」より》(オットリーノ・レスピーギ)です」
過去11回の全国大会出場では、自由曲はすべて高昌帥や西村朗、ヤン・ヴァン・デル・ローストらが作曲した吹奏楽オリジナル曲だった。今年は大きな方向転換だ。
「浜松海の星のころ、クラシック曲のアレンジものだと東海大会を抜けられなかったんです。いわば、そのころへの原点回帰ですね。ただ、《ローマの祭り》をやるのは初めてです。宇都宮市文化会館でオーケストラのような響きが出せたら……と思っています」
《ローマの祭り》をいえば、全日本吹奏楽コンクールで最多の演奏回数を誇る人気曲。そして、冒頭にバンダでトランペットが演奏する勇壮な響きなど、随所にトランペットが重要な役割を果たす。
「今年は力のあるトランペット奏者が揃ったので、やるならいましかない、という思いがありました。また、部内の男子の比率が上がり、サウンドや空気感も以前とは変わってきています。チャレンジする怖さはちょっとありますけど、なんとか東海大会を越えて、全国大会金賞をとってみたいです」
結果とともに素晴らしい演奏を期待!
イチカシも浜松聖星も、昨年は全国大会銀賞だった。
今年は課題曲は同じIII。自由曲はイチカシが樽屋雅徳《月下に浮かぶひとすじの道標〜3.11 超克の祈り〜》、浜松聖星が《交響詩「ローマの祭り」より》と、それぞれのバンドのカラーを活かして昨年以上の結果を目指そうという思いが選曲から感じられた。
コンクールの結果はもちろんだが、音楽そのものがどんな仕上がりになるかも、聴く側からしてみると大きな楽しみ。コンクール本番のステージでイチカシと浜松聖星が目の覚めるような素晴らしい演奏を披露してくれることを心から期待したい。