6月6日から13日までアルメニアの首都エレバンで開催された第21回ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門で、大井駿が第2位入賞と古典派交響曲ベストパフォーマンス賞を獲得した。
同コンクールは、20世紀を代表するソビエト・アルメニアの作曲家アラム・ハチャトゥリアンの生誕100年にあたる2003年に創設された国際的な音楽コンクール。毎年作曲家の誕生日である6月6日に合わせて開催され、指揮、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの4部門で世界中から若手音楽家が腕を競う権威ある大会として知られている。
今回の指揮部門では、優勝をLeonard Raymond William Weiss(オーストラリア)とFernando Oscar Gaggini(アルゼンチン)が同率で分け合い、大井駿が第2位に輝いた。同時に授与された古典派交響曲ベストパフォーマンス賞(Special Prize for Best Interpretation of a Classical Period Symphony in the 1st Round)は、1次予選での卓越した演奏に対する特別な評価を示している。
指揮・ピアノ・古楽器の三刀流、大井駿の多彩な才能が開花
1993年東京都生まれの大井駿は、幼少期を鳥取市で過ごし、その後ヨーロッパ各地で多様な音楽教育を受けた多才な音楽家だ。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽科、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科を卒業し、同大学指揮科修士課程、さらにバーゼル・スコラ・カントルム大学院フォルテピアノ科を修了している。
指揮をブルーノ・ヴァイル、イオン・マリンに、ピアノを迫昭嘉、アンドレアス・グロートホイゼンに、チェンバロとフォルテピアノをクリスティーネ・ショルンスハイム、エドアルド・トルビアネッリに、古楽奏法をラインハルト・ゲーベルに師事するなど、世界最高峰の指導者から学んだ実力派だ。
2022年には第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)で優勝し、細川賞も受賞。指揮者としてはもちろん、ピアニスト、古楽器奏者としても活躍する次世代の注目株として、国内外で高い評価を得ている。
ベートーヴェン交響曲第1番からハチャトゥリアン「鐘」まで幅広いレパートリー
今回のコンクールで大井は、1次予選でベートーヴェンの交響曲第1番第1楽章、ペンデレツキのアダージェット(直前に渡されて指揮する課題)、ハチャトゥリアンの「スパルタクス」第2組曲のアダージョを演奏。ファイナルでは、ハチャトゥリアンの交響曲第2番「鐘」第1楽章とチャイコフスキーの交響曲第5番第4楽章でアルメニア国立交響楽団を指揮した。
古典派からロマン派、近現代まで幅広いレパートリーを高い水準で演奏し、特に1次予選でのベートーヴェン交響曲第1番の解釈が古典派交響曲ベストパフォーマンス賞の評価につながった。審査員からは、作品の様式感への深い理解と、オーケストラとの対話能力が高く評価された。
2021年出口大地優勝に続く日本人指揮者の連続入賞
ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門では、2021年の第17回大会で出口大地が日本人として初めて優勝を果たしており、今回の大井駿の第2位入賞は、日本の若手指揮者の実力の高さを改めて世界に示す結果となった。
出口大地の優勝から4年を経て、再び日本人指揮者が上位入賞を果たしたことは、日本のクラシック音楽界にとって大きな意味を持つ。特に両者とも国際的な教育機関で研鑽を積み、ヨーロッパの伝統的な指揮法を身につけながら、日本人としての感性を活かした演奏で世界に認められた。
世界配信で注目された次世代マエストロの国際デビュー
今回のコンクールは、公式サイトによると「出場者の演奏はオンラインで配信され、各競技日の最後の出場者まで生中継される」形で実施された。大井自身も受賞後のメッセージで「配信を通じて日本からもたくさんの応援をいただいたことが心の支えになりました」と感謝の言葉を述べている。
「アルメニアという地で、この国の作曲家ハチャトゥリアンの音楽を指揮できたことは、何にも代えがたい経験でした。これからも音楽を深めていけるよう邁進して参りますので、変わらぬご支援をよろしくお願いいたします」と、今後への意欲を語った。
大井駿は既に8月9日の東京文化会館でのシュロモ・ミンツとの共演(チェンバロ奏者として)、9月7日の武生国際音楽祭ファイナルコンサートでの指揮など、国内での演奏予定が続く。今回の国際的な受賞を機に、さらなる活躍が期待される若手マエストロとして注目が集まっている。