近年、コンクールの審査員としても活躍されているピアニストの外山啓介さんに特別インタビュー!
審査員目線でのアドバイスに加えて、ご自身がコンクールに出た経験も振り返りつつ、実力を発揮するためのコツなどをユーモアたっぷりに語ってくださいました。これからコンクールに臨む方はぜひ参考にしてみてください。
インタビュアー
山本知恵
ピアノ歴30年以上、他にもクラリネット、ヴァイオリンの演奏経歴を持つ音楽と美術を愛するフリーライター。好きな曲はベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」とヘンデルのオラトリオ「メサイア」。
プロフィール
外山啓介/ピアノ
Keisuke Toyama, Piano
第73回日本音楽コンクール第1位。東京藝術大学卒業後ハノーファー音楽演劇大学留学を経て、東京藝術大学大学院を修了。
07年CDデビュー、これまでに9枚のCDをリリースし09年『ラフマニノフ』と13年『展覧会の絵』は「レコード芸術」誌特選盤に選出されている。全国各地でのリサイタル・ツアーを毎年実施、主要オーケストラとの共演も多数あり、その繊細で色彩感豊かな独特の音色を持つ演奏は、各方面から高い評価を得ている。18年、第44回「日本ショパン協会賞」受賞。21年、最新CD『《ワルトシュタイン》《悲愴》《熱情》~ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集』をリリース(『レコード芸術』誌特選盤に選出)。
札幌大谷大学芸術学部音楽学科特任准教授。洗足学園音楽大学非常勤講師。桐朋学園大学非常勤講師。
コンクール審査員として
――最近ではベートーヴェン国際ピアノコンクールアジアやピティナ・ピアノコンペティション特級など、数々のコンクールで審査員も務めていらっしゃる外山さん。審査をされるときに、一番気にかけているのはどんなところでしょうか?
外山
とにかく公平に、同じテンションで聴くように心掛けています。課題が多かったり、演奏時間が長かったりするコンクールの時は、各々のプログラミングの意図やストーリー性、バランスにも注目しています。プログラムに起承転結や緩急があると魅力的だなと思いますね。
――たくさんの人数を続けて審査しないといけないというのは、かなり緊張感がありそうだなと想像しました。自分らしさを表現するためにはプログラム構成も重要ですね。
外山さんは音源審査の段階から立ち会った経験はありますか?
奏者が音楽コンクールに送る音源の質について「こういう音源は聞きづらくて困った」などのエピソードがあればぜひ教えてください。
外山
何度か立ち会ったことがあります。それぞれまったく手段が違っていて、そこが良いところでもあるので一概には言えませんが、音質や画質は可能な限り良いもので提出していただくと嬉しいです。並べて聴く(観る)と、やはり高音質、高画質の方が、演奏者の細かいニュアンスや意図が伝わってきやすいですね。
――自分の意図するところをしっかり届けるためには、できるだけ高音質、高画質で録音することが大切なのですね。納得です!
コンクールで実力を発揮するためには
――コンクールや演奏会で実力を発揮するためのコツや、マインドセットのポイントがあれば教えてください。
外山
とても難しいですね…。ある意味、開き直って弾くしかないのかなと思います(笑)舞台に出ればいつか本番が終わり緊張から解放されます。しかし、舞台に出ないと(本番が終わらないと)ずっと緊張し続けていなくてはいけないので、その方が辛いかも。
本番は最高の勉強の場です。舞台の上でしか経験できないことがあります。そのチャンスに恵まれるなんて幸せだ!と考えるようにしています。
――「開き直る」ことで、ポジティブな考え方にシフトできるのですね。
もし、コンクール目前の過去の自分に一言伝えられるならば、どのように声をかけますか?
外山
「諦めて舞台に出なさい。弾かないと永遠に緊張したままだから!」ですかね(笑)
――確かに「永遠に緊張したまま」では大変過ぎます(笑)。「諦める」という発想もおもしろいですね。
これからコンクールに挑戦しようとされている方たちのために、ぜひメッセージをお願いします!
外山
自分の演奏のイメージは、普段の練習のうまくいった部分を切り貼りして、どんどん美化されて作り上げられているものだと思うのです。だから、本番後にあまり弾けなかったと思っても、意外とそんなことないから落ち込まないで、と言ってあげたいです。
――常日頃の演奏がそのまま本番にもあらわれるということでしょうか。外山さんの言葉を通して、普段の練習が大切なのだとあらためて考えさせられました。
下記記事では、ピアノ演奏上達のためのアドバイスや、外山さんの学生時代の練習方法についてご紹介しています。ぜひ併せて参考にしてください。
ピアニスト外山啓介としての想い
――2007年にデビューしてから今年で17年。現在、外山さんはどのような想いを抱いて舞台に立っていらっしゃいますか?
外山
17年も経ったか…としみじみ思います。
とにかく、ひとつひとつの本番に真摯に向き合う、それに尽きると思います。ツアーだと同じプログラムを各地で演奏することになりますが、聴いてくださる方にとっては1/1だと思うので。分母が常に“1”であるような演奏家でありたいです。
――私はいつも聴く側の立場なので、そのように言っていただいて感激しました!「分母が常に“1”であるような演奏家」素敵な言葉ですね。9月のピアノリサイタルがますます楽しみになってきました……!
この度は、貴重なお話を聞かせていただき本当にありがとうございました!