2025年8月7日(木)、札幌サンプラザコンサートホールで行われた「第44回毎日こどもピアノコンクール【高校生の部】」において金賞、さらに本選全体の金賞受賞者の中から最も優秀と認められた小学5年生〜高校生の1名に贈られる「21世紀賞」を受賞した吉川さん。今回は同コンクールをはじめ、これから音楽コンクールに挑戦する方に向けてお話を伺いました。
取材・文|編集部
自分にピッタリな音楽コンクールが見つかる!国内外の音楽コンクール情報や結果まとめをわかりやすくご紹介し、次世代の音楽家や音楽ファンの皆様に寄り添います。
プロフィール
吉川萌望(よしかわ もも)
札幌市在住 / 札幌日本大学高等学校3年
5歳からピアノを始める。
これまでに館村たつ子氏に師事。
現在は棚瀬美鶴惠氏に師事し、ソルフェージュを國陶千賀子氏に学ぶ。
趣味・特技
音楽鑑賞
受賞歴・演奏活動歴
第6回日本バッハコンクール 小学校1.2年生B部門全国大会金賞(2016年)
2017年ピティナ・ピアノコンペティション 北日本1・北日本2地区B級本選優秀賞
第19回ショパン国際ピアノコンクールinASIA アジア大会小学3・4年生部門奨励賞
2018年ピティナ・ピアノコンペティション 北日本1・北日本2地区C級本選奨励賞
2021年ピティナ・ピアノコンペティション 北日本1・北日本2地区D級本選奨励賞
第15回北海道ミュージックフェスティバルピアノコンクール 中学生の部金賞、連弾の部銀賞
第41回毎日こどもピアノコンクール中学生の部 本選奨励賞
SAKURA JAPAN MUSIC COMPETITION 2024 高校生の部 全国大会1位、特別賞
2024年ピティナ・ピアノコンペティション道東地区F級本選奨励賞
第43回毎日こどもピアノコンクール高校の部 本選銅賞
2025年ピティナ・ピアノコンペティション 北日本1地区F級本選奨励賞
第44回毎日こどもピアノコンクール高校の部 本選金賞、21世紀賞
毎日こどもピアノコンクールを終えて
ーーコンクール、お疲れさまでした。コンクールを終えて今現在のお気持ちをお聞かせください。
吉川
小学校1年生の頃から毎日こどもピアノコンクールに何度も挑戦し、悔しい思いを重ねてきました。そのような中で、最後の機会に金賞、そして21世紀賞を受賞することができ、嬉しく思います。成長の機会をいただきました毎日こどもピアノコンクールに、心から感謝しております。
当日ぎりぎりまで自分の音楽を追求し、本番では心から楽しんで演奏することができ、生涯忘れられないステージとなりました。私の演奏に涙してくださった方がいらしたと知り、とても嬉しく思うと同時に、これからも心に届く演奏を目指していきたいと改めて感じました。
今回の経験をこれからにつなげ、より良い演奏を目指し、日々努力してまいりたいと思います。
ーーなぜこのコンクールに挑戦しようと思われましたか?
吉川
小学校1年生の時に初めて毎日こどもピアノコンクールに挑戦して以来、これまで何度も悔しい思いを経験してきました。しかし、その度に学びと成長があり、今の自分につながっていると感じています。
当初は高校3年生で大学受験を控えていることもあり、出場するかどうか大いに迷いました。コンクールに挑戦するからには、決して中途半端な気持ちで臨みたくはなく、勉強もピアノも最後までやり遂げられるのかを何度も考え、悩みました。
それでも、これが最後の機会であるからこそ、これまで大切な経験を積み重ね、多くの思い出をいただいた毎日こどもピアノコンクールに、もう一度挑戦したいという思いが強まり、出場を決意しました。
ーー練習をするにあたって、どのようなことに気を付けましたか?
吉川
バッハ <平均律クラヴィーア曲集> 第2巻第2番のフーガでは、4つの声部が互いに語りかけるように歌詞を想像するような気持ちで取り組みました。これまで、自分が思い描く音色を十分に表現できないことが課題でしたので、フレーズごとに音をイメージし、その響きを具体的に出す練習を重ねました。
あわせて、ソプラノとアルト、ソプラノとバスなど、すべての声部の組み合わせを取り出して二声で弾き、それぞれの関係性を感じ取る練習も行いました。
今回の取り組みを通して、声部同士の対話をより意識し、自分の音色に一歩近づけたように思います。
シューベルト<ピアノ・ソナタ>第4番イ短調D537 Op.164 第1楽章は、長い期間演奏している曲であったため、自分の演奏スタイルが固定されてしまっていました。そこで改めて譜面に立ち返り、ゼロから向き合うよう努めました。シューベルトが「風が吹いただけで涙する」と言われる繊細な感性をもつ作曲家であることをご指導頂いている棚瀬美鶴恵先生が教えてくださり、その世界観に入り込みながら、苦しみや希望を表現できるよう意識して練習しました。
練習中は本番をイメージして取り組んでいました。自分の演奏を録音することで、緊張感をもって練習することができ、弾いてる時には自分で気づきにくい細部まで改善することができました。本番をイメージする練習を行うことで緊張を和らげられていたと思います。
ーーコンクール準備期間にこころがけたことは何かありますか?
吉川
マンションに住んでいるため、午後9時までしかピアノを練習できません。平日は学校から帰宅後の約2時間と限られていますが、その短い時間を有効に使えるよう、課題となっている部分を中心に取り組みました。
通し練習に偏らず、フレーズごとに区切って反復することで、短時間でも仕上げられるよう努めました。平日に十分な時間を確保しにくい分、休日は一日を通してじっくり向き合いました。
午後9時以降は楽譜を見てイメージトレーニングを行いました。また、良い演奏には心身の健康が欠かせないと考え、疲れを翌日に残さないよう十分な睡眠を心がけました。少しでも練習時間を長く確保するため、両親が毎日学校の送迎をしてくれています。
ーー本番を迎えた当日のお気持ちをお聞かせください。
吉川
演奏時間が夕方だったため、睡眠をよくとり、しっかりご飯を食べ、ホールで演奏できることを楽しみにしながらリラックスするようにしていました。最後の練習は、不安な箇所を確認しながら直前まで自分の音楽を追求しました。移動中は、睡眠をとったり、音楽を聴いて歌ったりして緊張をほぐしました。
舞台裏では、楽譜を開きつつ、自分の演奏を聴き返しながら、体を動かし、ずっと座って待機しないように心がけています。ステージに出る直前は、「楽しもう」と心の中で唱えています。まずは自分が曲の世界観に入り、ホールの空気を自分のものにして自分の音楽を演奏しない限り、聴いてる人の心に届く演奏はできないと思うからです。
ステージに立つとこれから演奏できる喜びが勝り、緊張せずに、楽しんで演奏することができます。また、私は間違えることを恐れないようにしています。「この部分はこう弾かなければならない」だとか、「ミスタッチを絶対してはいけない」とか考えすぎてしまうと、演奏が消極的になってしまいます。だからこそ、私はただ自分の音楽を聴いてもらおうと思って演奏するようにしています。
ーー毎日こどもピアノコンクールに挑戦する方へのメッセージをお願いします。
吉川
私は、最後まで粘り強くあきらめず、自分の音楽を大切にすることの大切さを改めて実感しました。どれだけ努力しても思い通りの結果が出ないことはありますが、本番で”今できる”最大限の自分の音楽を奏でられれば、それだけで自信につながります。
私自身も悔しい思いを重ね、そのたびに「来年こそは」と練習に励んできたからこそ、今回の結果につながったのだと思います。これからも悩むことはあると思いますが、小学校の頃からお世話になってきた毎日こどもピアノコンクールでの経験を糧に、困難を乗り越えながら自分の音楽を追求していきたいです。
ーーー今後の目標などをお聞かせください。
吉川
私は将来、中学校の音楽教師になりたいと考えています。より多くの人に音楽の楽しさや喜びを伝えるためにも、まずは自分自身の音楽をさらに追求し、表現力を高めていきたいと思っています。
中学校時代は吹奏楽部に所属し、フルートとピッコロを演奏していた経験があるため、大学生になったらピアノだけでなく、再びフルートにも力を入れ、総合的に音楽力を磨きたいと考えています。
また、日頃から音楽の魅力を伝えながら、励ましとご指導をしてくださる棚瀬美鶴恵先生、大学受験に向けてソルフェージュをご指導くださっている國陶千賀子先生、いつも美しい音色に調律してくださっている天内潮音さんには心から感謝しております。そして、いつもサポートして応援してくれる家族や祖父への感謝の気持ちを忘れずに、努力を重ね続けることを大切にしたいと思っています。
これからも、学びや経験を通して自分の音楽を高めて、誰かの心に届くような演奏を目指していきたいです。
小学校1年生から毎日こどもピアノコンクールに挑み続けた、吉川さん。最後の機会に金賞、そして21世紀賞へたどり着いた歩みから、積み重ねてきた時間と“舞台を心から楽しむ気持ち”がまっすぐ伝わってきました。受験期の迷いを抱えつつも「もう一度挑戦」を選んだ決意が、今回の結果をそっと後押ししたのだと感じます。
将来は中学校の音楽教師として音楽の喜びを広く届けたいという目標もまっすぐです。ピアノに加えフルートにも再び取り組む意欲、そして先生方やご家族への感謝の言葉から、これからの歩みの確かさがうかがえました。「今できる最大限を奏でれば自信になる」というメッセージは、挑戦する多くの方の背中をやさしく押してくれるのではないでしょうか。
お忙しいところありがとうございました。今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
2026年3月14日:毎日こどもピアノコンクール受賞者コンサート(札幌コンサートホールKitara 小ホール)
第44回毎日こどもピアノコンクールの概要については下記をご覧ください。
第44回毎日こどもピアノコンクールの結果については下記をご覧ください。