2025年6月26日(現地時間)、世界で最も権威のある指揮者コンクールの一つである『第12回アルトゥーロ・トスカニーニ国際指揮者コンクール』の本選出場者12名が発表され、日本からは岡本陸(26歳)と井手カナ(29歳)の2名が出場を決めた。
同コンクールは、イタリアの巨匠アルトゥーロ・トスカニーニを記念して1985年に設立され、これまで大野和士をはじめ、多くの著名指揮者を輩出してきた登竜門的存在だ。
今回選出された12名の中には、ロシア、イタリア、韓国、中国、ドイツ、ブラジル、ベネズエラ、オーストリア、アメリカ、オーストラリアなど世界各国から集まった精鋭指揮者たちが名を連ねている。
大野和士以来の日本人優勝者誕生なるか
日本人指揮者の同コンクールでの活躍は、1987年の大野和士による優勝が唯一の栄冠となっている。それから37年の時を経て、再び日本人指揮者が栄光を手にする可能性が高まっている。
本選出場を果たした岡本陸は、東京音楽大学作曲指揮専攻を卒業後、現在はフィンランドで研鑽を積み、名教師として知られるヨルマ・パヌラ氏に師事している。2022年にはBMI国際指揮者コンクール(現:ブカレスト国際指揮者コンクール)で優勝を果たし、2024年のモンテカルロフィルのツアーでは山田和樹氏によりアシスタント指揮者に選出されるなど、着実にキャリアを積み重ねている。
井手カナは、桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部のヴァイオリン専攻を卒業後、現在は東京藝術大学音楽学部指揮科に在学しながら、NHK交響楽団N響アカデミー指揮研究員を務めている。国外ではシベリウス音楽院・ヨルマパヌラアカデミーで研鑽を積んでおり、岡本と同様に世界的な名教師の薫陶を受けている。
8月31日開幕、イタリア・パルマでの熱戦
コンクールは8月31日から9月7日にかけて、イタリア北部の古都パルマで開催される。審査は3段階に分かれており、まず8月31日から9月2日にかけて第一次審査が行われ、12名から6名に絞り込まれる。
続いて9月3日から4日にはセミファイナルが実施され、この段階から一般公開される予定だ。最終的に3名がファイナルに進出し、9月5日から6日にかけて最終審査が行われ、9月7日に最終演奏会と授賞式が開催される。
世界最高峰コンクールの40周年記念大会
第12回となる今回のコンクールは、設立40周年とアルトゥーロ・トスカニーニ管弦楽団創立50周年を記念した特別な大会となる。アルトゥーロ・トスカニーニ財団が主催し、1985年にウラディーミル・デルマンの提唱により設立された同コンクールは、不定期開催ながらも世界の指揮界において絶大な権威を誇っている。
岡本は2024年の東京・春・音楽祭において、リッカルド・ムーティ氏によるイタリア・オペラ・アカデミーを受講するなど、イタリア・オペラへの造詣も深めており、トスカニーニの精神を受け継ぐコンクールへの挑戦は必然とも言える。
過去に多くの著名指揮者を輩出した登竜門
同コンクールの歴史を振り返ると、現在メトロポリタン歌劇場やスカラ座で活躍する指揮者をはじめ、現在の指揮界を牽引する巨匠たちが若手時代に栄冠を手にしている。
優勝者には賞金とともに、アルトゥーロ・トスカニーニ・フィルハーモニー管弦楽団との協演の機会が与えられ、国際的なキャリアへの扉が開かれることになる。
日本のクラシック音楽界にとって、岡本陸と井手カナの2名の活躍は、次世代を担う指揮者の台頭を予感させる大きな出来事となっている。37年ぶりの日本人優勝への期待が高まる中、8月末からの熱戦に注目が集まっている。